スペインの移籍市場に「W杯特需」なし 大物は動かず、バルサとレアルは先物買い

未発掘のタレントが少なかったロシアW杯

この夏バルサに加入し、親善試合で存在感を放つブラジル人MFアルトゥール 【写真:ロイター/アフロ】

 これまでスペインのフットボール界では、ワールドカップ(W杯)のようなビッグトーナメントで台頭した新星たちが直後の移籍市場をにぎわせてきた。だが今回のロシア大会で現れた未発掘のタレントは数えるほどしかおらず、既に認知されているビッグネームたちがあらためてその実力を示すにとどまった。そのせいか、今夏のスペインの移籍市場ではさほど活発な動きが見られていない。

 直接の原因として結びつけることは難しいかもしれないが、昨夏に選手の市場価格が跳ね上がったことも、各クラブの動きを鈍くしていると言える。その傍ら、スペインでは一方的に契約を解除できる違約金の設定が義務付けられているため、他国のクラブに選手を引き抜かれるケースが多発している。

 いずれにせよ、現時点で新たにスペインにやってきた大物選手は1人もいない。ラ・リーガが各クラブの収支バランスを厳しく管理するようになった現状を考慮すれば、今後もその可能性は薄いだろう。ネイマールのパリ・サンジェルマン移籍、フィリペ・コウチーニョやウスマン・デンベレのバルセロナ移籍に匹敵する大型移籍を実現するためには、同レベルの大物選手を売却しない限り難しいはずだ。

バルサとレアルは若手有望株を確保

R・マドリーがフラメンゴから獲得した18歳のFWビニシウス・ジュニオール 【Getty Images】

 こうしたスペインの現状は、計算できる即戦力より、市場価値が上がる前の若手有望株に着目しはじめたバルセロナの補強方針に見て取ることができる。

 今夏に獲得した即戦力と言える選手は、セビージャから3600万ユーロ(約46億円)で獲得したDFクレマン・ラングレと、ブラジル人MFアルトゥール、そして現地時間3日にバイエルンから獲得することで合意に達したアルトゥーロ・ビダルくらいだ。3100万ユーロ(約40億円)でグレミオから獲得した21歳のアルトゥールはシャビ・エルナンデスとよく似た特徴を持つ選手で、プレシーズンマッチからその才能を発揮しはじめている。

 一方、ローマからの強奪が問題視されたブラジル人MFマルコムの獲得は、将来性を見込んでの補強だと言える。なお、彼の加入はポジションが重なるデンベレに危機感を抱かせることにもつながっている。

 同様の傾向はレアル・マドリーにも見られる。これまでフロレンティーノ・ペレス会長は、移籍市場の終了間際まで待った上で、大物選手を獲得することが多かった。今夏も8月末にティボー・クルトワとの契約をまとめる可能性が高いが、同じくチェルシーがW杯での活躍もあり2億ユーロ(約257億円)の移籍金を要求しているエデン・アザールは、簡単には手が届かなそうだ。

 W杯ブラジル大会で活躍したケイロル・ナバスやハメス・ロドリゲスを獲得した2014年夏のように、今夏もレアル・マドリーはW杯で3位に入ったベルギー代表の2選手に興味を示している。彼らを買い取るための資金繰りに苦戦しているわけでもないのだが、現時点でペレス会長はフラメンゴからビニシウス・ジュニオール、サントスからロドリゴ(19年夏から加入予定)、レアル・ソシエダからアルバロ・オドリオソラと、若手選手の補強を優先している。19歳のウクライナ人GKアンドリー・ルニンを含め、新たに加わった彼らがすぐにトップチームで出場機会を得ることは難しいだろう。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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