ルイス・エンリケに代表で期待されること ポゼッション至上主義からの脱却なるか

ルイス・エンリケに期待される仕事は?

ルイス・エンリケの就任会見の様子。期待される仕事は今までのスタイルの順守ではない 【写真:ロイター/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会の閉幕を待たずに、スペイン代表の新たなサイクルがスタートした。ロシアで大失態を演じた後、スペインサッカー連盟(RFEF)のルイス・ルビアレス新会長は、明確なアイデアをいち早く実行に移した。だがルイス・エンリケ新監督の就任により、“ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)”の未来と目指すべきプレーモデルは不透明なものになったと言える。

 近年のスペインのプレースタイルはポゼッション至上主義と形容できるものだ。多くのMFを起用して中盤に数的優位を作り出し、グラウンダーのショートパスを多用しながら、2列目、3列目からの攻め上がりでライバルの守備組織に生じたスペースを突いていく。そのために必要なのは、相手守備陣を混乱させるための選手であり、前線に張り出すストライカーは1人いれば十分だった。

 ルイス・アラゴネスが確立したこのプレースタイルはこの国のフットボールのアイデンティティーとなり、後任のビセンテ・デル・ボスケとフレン・ロペテギの下でもしっかり受け継がれてきた。だが、ルイス・エンリケに期待されている仕事は、12年以上も続いてきたポゼッション至上主義を、ただ順守することではない。

圧倒的なゲーム支配を見せるも、スコアは接戦に

10年のW杯南アフリカ大会を制したスペインだが、スコア上は接戦の試合が多かった 【写真:ロイター/アフロ】

 このポゼッションスタイルを武器に、スペインは2008年から12年にかけて、2度の欧州選手権(ユーロ)とW杯を立て続けに勝ち取った。だがその成功の裏には、常に大きな問題がつきまとっていた。どの試合でもボールを独占し、敵陣に押し込み続ける圧倒的なゲーム支配を実現しながら、肝心のゴールチャンスを作れず、スコア上は接戦となってしまうことだ。

 10年のW杯南アフリカ大会もそうだった。最終的には優勝したものの、スイスとのグループリーグ初戦ではボール支配率で圧倒しながら1ゴールも奪えず、0−1で敗れている。スイスにはロシア大会直前の親善試合でも苦戦を強いられ、1−1で引き分けた。今思えば、それはスペインがロシアの地で直面する障害を知らせる警笛だったのだ。

 スペインが置かれている現状は、ルイス・エンリケがヘラルド・マルティーノの後任に就いた14−15シーズン当初のバルセロナによく似ている。

 08年から12年にかけてチームを率いたジョゼップ・グアルディオラの指揮下で、バルセロナのフットボールは世界中を虜(とりこ)にした。だがグアルディオラが去り、後任のティト・ビラノバも病に倒れる中で、徐々にチームは輝きを失いはじめる。選手たちは心身に疲労を溜め込み、創造性にあふれる連係プレーや前線からのプレッシングは、以前ほど機能しなくなっていった。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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