イギリス研修を経て、池江璃花子の指導へ 三木二郎が思う「勝負で表れる自信」とは

田坂友暁
 高校2年生で2000年シドニー五輪に出場し、04年アテネ五輪の2大会に個人メドレーの選手として出場した三木二郎さん。現役選手を引退後、株式会社ミズノに勤めて選手たちのサポートを行っていたが、16年から18年、日本オリンピック委員会(JOC)の海外研修制度によってイギリス水泳連盟に派遣。50メートル、100メートル平泳ぎ世界記録保持者のアダム・ピーティーら、イギリス代表選手たちの指導を経験し、18年6月から池江璃花子(ルネサンス/淑徳巣鴨高)のコーチに就任した。

 その明るい人柄から、みんなに愛されるキャラクターとして現役時代から知られていた三木コーチが、選手として世界を経験したこと、外から選手をサポートして見えたこと、そして指導者として国内外の選手を見たときに感じたこととは。35歳となった今、数多くの選手と接してきた中で感じたことを、代表選手たちへのメッセージと合わせて話を伺った。

時代の違いを実感する今 指導者側の変化も必要

競泳の個人メドレー代表選手として、五輪2大会に出場した三木二郎さん。高校生で出場したシドニー五輪から18年が経ち、コーチとして選手指導にあたっている 【田坂友暁】

――今年、指導者としてプールサイドに立つことになりました。率直に、自分たちの時代と違うなと感じることはありましたか。

 私たちの世代の選手は、みんな良い意味で個性が際立っていた印象があります。例えば20人の選手がいたら、20人が全員それぞれ「こうしたい」という別々の強い想いを持っていました。そういう個性の強い選手たちが、ここぞというときに団結することで、ひとつのチームとして結果を残していく。
 今の選手たちは、どちらかというとおとなしいというか、素直な選手たちが多いですよね。もっと自分はこうしたいんだ、ということを主張したり、個性を思い切って出していったりすると、もっと個々の力を引き出せる可能性があるんじゃないかなと思います。

 カルチャーショックを受けた出来事もありました(笑)。例えばですけど、みんなプールサイドに携帯を持ってきているんです。さすがにビックリして、ある選手にせめて練習前の30分、練習後の30分は携帯を触らないことはできないかと話しました。やるときはやる、遊ぶときは遊ぶというように、すべてにおいてオンとオフをハッキリと区別させておくことは競技者として大切なことであって、それは小さなことの積み重ねだから、練習前後は携帯を触らないということも大切なことだと伝えたんです。そうしたら、その選手は次の日からプールサイドに携帯を持ってこなくなりました。
 この出来事で感じたのは、言い方次第なんだなということ。昔だったら、「お前、携帯なんか持ってくるな」と言われて、選手は「はい!」で終わりだったと思うんです(笑)。でも今は違う。なぜ携帯をプールサイドに持ってきてはいけないのか。その理由付けをしてあげて分かってもらえば、素直な選手たちですから、ちゃんと分かってくれるんです。

 自分たちにとって常識だったことが今では非常識だったり、逆に選手たちにとっては常識だけど、私たちにとっては非常識なことだったりすることもあります。私たちの常識だけで「こんなこと、ちょっと考えたら分かるやろ」ということも、時代が違えば経験したこともなければ、考えもしなかったことの場合もあるわけです。その違いを私たちはまず知らないといけない。そのうえで、必要ならば理由付けをして説明をしてあげれば良い。時代が変われば、変わっていくこともある。その変化に私たち指導者も対応していかなければならないと感じています。

イギリスでの指導者研修を経て、6月からは池江璃花子(写真)のコーチとしての活動をスタートさせた 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

――時代の変化に合わせて、物事の伝え方も変えていくことが大切だということですね。

 当たり前のことを当たり前にやる。この大切さは、今も昔も変わりません。私はこの「当たり前のことを当たり前にやる」ということについて、「手の汚れは取れるけど、心の汚れは取れないよ」という言い方で選手に伝えています。
 例え話ですが、会社にゴミが落ちていたとき、それを拾ってゴミ箱に捨てる人って少ないと思うんです。でも大切なことは、誰が落としたかどうかは関係なくて、ゴミなんだから拾えば良いだけのことです。ゴミが落ちていたら、拾って捨てる。本当は当たり前のことなのに、実はできていないことって多いんです。

 この話で言えば、ゴミを拾ったことで手が汚れてもそれは洗えば済みますけど、「あのときゴミを拾っておけば良かったな」と、後悔という心の汚れは取れないんです。もしそういう後悔をしてしまったら、次からは心の汚れを残さない行動をすれば良い。あいさつもそうですよね。「あのときあいさつすれば良かった」と後悔するなら、あいさつをすればいいだけです。もしかしたら、そういう考え方は古いですよ、なんて言われるかもしれません。でも、良いものや伝統は残していきたいですし、当たり前のことは当たり前にやることは、時代が変わっても大切なことだと思っていますから、伝えて継承していきたいですね。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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