会社人事の心も動かしたテコンドー本間 明るさが強み 充実の社会人1年目

平野貴也

「テコンドーを学ぼうとしてくれた」空手恩師の姿勢

社会人1年目。「本間政丞」の名前が描かれた大きな応援旗には、就職先であるダイテックス社からのエールが込められている 【スポーツナビ】

 本間は高校入学と同時に、テコンドーへ転向した。空手を学んでいた士衛塾が提携していた開志学園高が、空手専攻コースにテコンドーを新たに加えてくれた。ただ、道場には指導者がおらず、本間たちテコンドーの選手は、2カ月に1回、東京の大東文化大に出稽古に行き、練習や指導の内容を全部メモして帰って、自分たちで練習していたという。

「新潟は、恩返しをしなければいけない場所。ルーツというか、原点。士衛塾の先生は、空手しか教えられないのに、テコンドーのことを学ぼうとしてくれていた。その姿勢に感動した。指導者は、選手を手元に置いて、自分の色に染めたいものなんじゃないかと思うけど、好きなようにやらせてくれたから、今の自分がある。だから、結果で恩を返したい」

 学ぶ機会が貴重だった経験が、ただ“教わる”のではなく“考える”という習慣を生んだ。
 大東文化大では、指導者や仲間がいる喜びを実感。国内トップレベルの選手との切磋琢磨(せっさたくま)の中で、自分の強みを生かすスタイルを見つけた。金井洋監督から「レベルが上がることで、当たり前が増える」と言われ、できて当たり前の技術を一つずつ増やすことで、競技力のベースアップを図った。ポジティブシンキングのメンタルトレーニングにも取り組み、持ち前の明るさは、試合での強さにも反映されるようになった。そして現在、競技に理解ある就職先を得て、最も充実した時間を送っている。

「生活は、ガラっと変わりました。週に2日は会社で仕事をしていますが、それ以外の日は、朝起きたら自分の強化したいフィジカルトレーニングをして、夜は大学の練習に参加させてもらっています。睡眠を十分に取れますし、学生時代はアルバイトをしてもお金の余裕があまりありませんでしたが、今は食事も栄養面を優先して選べます。心に余裕が生まれて、いろいろな角度で自分を見ることができて、すごく充実しています」

目指す東京五輪「ジャージだけもらって終わるのは嫌」

東京五輪出場、金メダル獲得――大きな夢の実現へ向けて精進する 【スポーツナビ】

 環境が変わるたび、変化を刺激にして成長してきた。今後のターゲットは、2020年の東京五輪だ。世界ランク6位以内に入れば出場権を得られるが、現実的には厳しく、全日本テコンドー協会が有する2つの開催国枠での出場を狙う。まだ国際舞台に挑み始めたばかり。高い目標を立てるのは、時期尚早だ。しかし、夢は描いて追わなければ実現しない。

「まだ金メダルは、現実的ではないです。国際大会で、まず目の前の1勝が今の目標。五輪に出るには、代表に選ばれないといけませんし、日本の男子の主力である3階級(58、68、80キロ)の中から68キロ級を開催国枠に選んでもらえるように、ほかの2階級より結果を出さないといけません。世界でどれだけ勝てるか。来年の世界選手権でベスト8には行けるくらいにならないといけないと考えています。五輪に出られたとしても、ジャージだけもらって終わるというのは、嫌。そこは、プライドを持ってやりたいです。五輪の目標は、金メダルです」

 課題をポジティブに捉えて、乗り越えていくのが、本間のスタイルだ。「まさのじょう」と読む、時代劇に登場しそうな名前は、中国の歴史に登場する最高官吏「丞相」のように、トップに立つ人の意味が込められている。テコンドーで金メダル。新潟のおいしい水と米で育った本間は、あくまでも頂上を目指す。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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