会社人事の心も動かしたテコンドー本間 明るさが強み 充実の社会人1年目

平野貴也
 2020年東京大会そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第24回は新潟県出身、テコンドーの本間政丞(まさのじょう/ダイテックス)を紹介する。

新潟出身の社会人1年生

テコンドーの本間政丞(左)は、故郷・新潟の恩師に「結果で恩を返したい」と話す。周囲の人々への感謝を胸に、高い目標を目指して歩む 【写真:アフロスポーツ】

 日本屈指の米どころで育った青年は、新潟と東京の水道水の違いを熱く語り始めた。

「新潟は、水道水がおいしいです。軟水ですし。東京でご飯を炊くときは、ペットボトルのミネラルウォーターを使うんですけど、新潟では水道水で炊けます。新潟のお米がおいしい理由も多分、水ですよ。全然、違いますから、お米の光り加減とか!」

 言葉の主は、韓国発祥の格闘技テコンドーの男子68キロ級で東京五輪を目指す、本間政丞だ。本題から少し離れて故郷の話を聞くと、屈託のない笑顔で話してくれた。

 本間は、今春、大東文化大を卒業。JOC(日本オリンピック委員会)のアスリート就職支援プログラムである「アスナビ」を通じて、機械設計などを行っている株式会社ダイテックスに就職したばかりの新社会人だ。採用担当者は「最初は、採るつもりなかったんですけどね」と笑った。本間の性格に惹かれ、採用に乗り出すことになったのだという。さわやかで明るく、元気が持ち味。あふれるエネルギーが魅力だ。

屈託のない笑顔に表れる、明るい空気感が本間の持ち味だ 【スポーツナビ】

 中学まで空手少年だった本間は、「五輪を目指せる」という誘い文句でテコンドーを勧められ、同じ道場の先輩たちを追って高校から競技を転向。新たな世界へ足を踏み出した。八角形のフロアの上に、白い胴着と赤、青の防具が映えるテコンドーは、相手の腰から上、電子防具を着用した胴と頭を打つ競技だ。パンチは、胴体のみ有効。より高いポイントが入る足技が重視される。着地せずに左右の足技を連続で繰り出したり、ダイナミックな回し蹴りを狙ったりする。素早く、軽やかで、アクロバティックな競技だ。リアルタイムにポイントが反映される点が明確で面白いと感じた本間は、すぐに夢中になった。

「空手は、決定打がなければ、最後に疲れていない方が勝つようなところがあります。なぜ負けたのか分からないという判定もありました。テコンドーは2分3ラウンドでポイント制。ラスト10秒で何点取れば勝てるか、誰が見てもすぐに分かるところが面白いです」

 開志学園高時代、JOCジュニアオリンピックカップで3位に入るなど台頭。大東文化大に進むと、3年次の16年に全日本テコンドー協会の強化指定選手に選出された。昨年は63キロ級から68キロ級に上げて日本代表選考会で優勝。世界選手権の2回戦では、第7シードの強豪と対戦。敗れたが、初めて世界のトップレベルを体感した。

「緊張はしなかったんですけど、ぶつかってやろうと思ってちょっと興奮気味でした。今やると、もう少し冷静に戦えるのかなと思います。スピードや柔らかさは、外国人の方が上。2階級上の選手じゃないかと思うくらいに力が強かった。体格差もあるので、今はディフェンスを鍛えています。守って、相手が欲深く、むきになったところでポイントを奪おうというスタイルです」

 国際大会を戦うようになり、世界で勝つ方法を見いだしつつある。今年は、8月にジャカルタで行われるアジア競技大会に初出場する。新たな世界を切り開き、次々と出てくる課題を前向きに捉えて克服していく。そこに、本間の強さがある。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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