巣鴨育ちの東京っ子クライマー、野中生萌 「エネルギッシュな東京」が彼女のホーム

松山ようこ
 2020年東京大会そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第22回は東京都出身、スポーツクライミングの野中生萌(みほう/TEAM au)を紹介する。

東京生まれ、東京育ち 三世代で同じ小学校へ

スポーツクライミングの野中生萌。世界で活躍する東京生まれの21歳は、観客をワクワクさせるクライマーとしても存在感を放っている 【写真:アフロスポーツ】

「え? 私、そんな風に言われてますか?」

 東京五輪に向けて、野中生萌への期待はますます高まっている。そう前置きしたところ、拍子抜けするほどすっとんきょうに、彼女はこう応えた。

 東京五輪から、新競技に認定されたスポーツクライミング。野中は女子のエースとして、ますます注目されつつある。今、日本では彼女と野口啓代(TEAM au)がボルダリングのツートップ。事実、両者は毎回のように、世界大会の表彰台をにぎわせている。結果を出しているだけではない。野中は底抜けに明るく、マイペース。今どきなのに、とても大人びている。メダル候補と目される21歳のトップクライマーは、そんな期待もどこ吹く風とばかりに、冒頭のコメントを言ってのけた。

 東京生まれ、東京育ち。野中家は、父方の祖父から父と生萌の姉二人を含む孫の三代にわたって都内の同じ小学校に通ったという。当然、祖父も東京が地元。自慢の孫の生萌の競技をいつもチェックしているらしい。6月に八王子で開催されたボルダリングのワールドカップ(以下、W杯)にも駆け付けた。

 「おじいちゃん、けっこう詳しいんですよ。『野口って人は〜』『(男子の)藤井(快、TEAM au)ってのは、今回はダメだったな〜』って、経緯も知っていてビックリですよ」と屈託なく笑う。そう言いながら、「あんま話さないですけど」とクール極まりない。「だって会話のテンポが合わないし。お母さんもそうなんですけど、天然というか、ペースが合わないのって私、嫌なので」とつれない。

 新競技スポーツクライミングは、ボルダリング、リード、スピードの3種目の混合で行われ、それらの順位による合計ポイントで順位が決まる。ボルダリングをメーンに活躍してきた野中は、東京五輪に向けて、ハイピッチでリードとスピードの強化に取り組んでいるところ。タフな状況をきっと祖父も母も家族はよく分かっているのだろう。言葉少なに陰ながら応援しているのが伝わる。

地元はおばあちゃんの原宿「巣鴨」

“おばあちゃんの原宿”巣鴨で育った。人でにぎわうこの場所が、彼女がほっとする地元だ 【スポーツナビ】

 文京区と豊島区で暮らしてきた。どちらが地元かと尋ねると、「やっぱり一番長いので、巣鴨(豊島区)ですね」と野中。“おばあちゃんの原宿”として知られる、あの巣鴨だ。メーンストリートの巣鴨地蔵通り商店街もホームだそう。朝からトレーニングで付近を一周することもあれば、日々の買い物や食事にも行く。

 世界各地の大会に出場し、巣鴨に帰ってくるというギャップがいい。「昨日までヨーロッパの街並を歩いていたのに、ここにいる……って思うことはありますね。もちろん、残念ということはなくて、特に地蔵通り(商店街)がにぎわっている時なんかは、『ああ、ここが地元で良かった』って思います」

 女子クライマーのなかでも、最も多くメディアに登場する野中。だが、巣鴨を歩いても、特に誰かに気付かれることはないという。昔も今も思うまま、気ままに街を歩く。塩大福や大学芋などの人気グルメもすべて制覇していると笑う。「地元だから、雨が降った時とか、絶対に人が少ないだろうってタイミングを狙って行くんです。行列のグルメですから、どれもおいしいですよ」と地蔵通り自慢は止まらない。

 東京の好きなところを尋ねると、「エネルギッシュなところ」と返ってきた。というのも、にぎわっているところが好きだから。「たまに地方で人気(ひとけ)のないショッピングモールとかに行くと、ちょっとブルーになるくらい。常に明るくてにぎやかなのが好き。けれど、東京は時間の流れがすごく早い。ゆっくりはできないですよね。この前の大会で行った岩手でも、朝に外に出た時の空気が全然違ったし、自然の匂いがするんですよね。そういうフレッシュ感は東京にはない。街中は臭いですから」と苦笑いする。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。翻訳者・ライター。スポーツやエンターテインメントの分野でWebコンテンツや字幕制作をはじめ、関連ニュース、企業資料などを翻訳。2012年からライターとしても活動をはじめ、J SPORTSで東北楽天ゴールデンイーグルスやMLBを担当。その他、『プロ野球ai』『Slugger』『ダ・ヴィンチニュース』『ホウドウキョク』などで企画・寄稿。2018年よりアイスクロス・ダウンヒルの世界大会Red Bull Crashed Iceの全レースを取材。小学館PR月刊誌『本の窓』にて、新しい挑戦を続けるアスリートの独占インタビュー記事「アスリートの新しいカタチ」を連載中。

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