鮮やかKO勝利…39歳パッキャオが戦う理由
次なるファイトに潜むリスクを覚悟せよ

見え隠れするパッキャオの財政難

16年、会見に臨むトレーナーのフレディ・ローチ(左)とパッキャオ。長年のコンビだが、今回は実現しなかった
16年、会見に臨むトレーナーのフレディ・ローチ(左)とパッキャオ。長年のコンビだが、今回は実現しなかった【写真:ロイター/アフロ】

 もっとも、すべての後で、この1勝だけで“パッキャオ完全復活”などと過剰反応すべきではない。ウェルター級では実績の乏しいマティセには圧勝できても、パッキャオがすでに下り坂の途上にいることは明白。まだ戦える力を保っているとは言っても、加齢とともに戦い続ければ破局はいずれ訪れる。


 パッキャオにはフィリピン上院議員としての仕事もある。潔さを好む日本の多くの支持者たちは、英雄が深く傷つく前の引退を望んでいるのだろう。例えば16年9月にウーゴ・ルイス(メキシコ)にストップ勝ちして3階級制覇を達成した長谷川穂積(真正)のように、マティセ戦を最後に身を引けば最高の花道になるのは確かに違いない。しかし……パッキャオの中にそんな選択肢はないことにボクシングファンはすでに気付いているはずである。


「引退は今日ではない。私にはまだ戦うモチベーションがある」


 マティセ戦後にもう述べていた6階級制覇王者は、声がかかる限り、大金が稼げる限り、リングに上がり続ける。その背後には、ボクシングへの愛着と同時に、パッキャオと自前のMPプロモーションの財政難があるというのは有名な話だ。


 15年のフロイド・メイウェザー(米国)との一戦だけでも約1億5000万ドルを稼いだパッキャオが金に困っていると聞けば驚く人もいるかもしれないが、その気前の良さ、散財癖も業界ではすでに知られるところになった。マティセ戦も自前のプロモーションがギリギリまで前金を用意できず、直前キャンセルの危機に追い込まれたのは象徴的。トレーナーのローチを雇わなかったことすらも、節約のための判断だったと見るメディアも存在するくらいである。

将来的なビッグファイトに潜む危険性

パッキャオの近い将来の正式引退は極めて考え難いだろう。英雄の次なる相手は果たして誰になるのか
パッキャオの近い将来の正式引退は極めて考え難いだろう。英雄の次なる相手は果たして誰になるのか【写真:ロイター/アフロ】

 結果として、パッキャオの近い将来の正式引退は極めて考え難い。例えばロイ・ジョーンズ、イベンダー・ホリフィールド(ともに米国)のように、40代後半まで戦い続けることを予測する関係者が大半。そして、だからこそ、マティセを倒して再び商品価値を上げた後で、遠からずうちにワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、テレンス・クロフォード(米国)とのメガファイトが実現する可能性は十分に思えてくるのだ。


 本来ならばホーン、アミール・カーン(英国)とのアジア&オセアニア圏での対戦が最も適切なのだが、新たにWBAタイトルを獲得したパッキャオはそれ以上のビッグマネーファイトを望むはずである。米国内でのプロモーターであるトップランクにとっても、傘下内での新旧戦は望むところ。16年の時点で実に6800万ドルもの税金を滞納していると伝えられたパッキャオは米国内でのファイトが難しい状況にあるが、この件さえ何とか解決すれば、次なるメガファイトは手の届く場所にある。


 特にクロフォード戦は戦慄的な結末を迎えることも十分に考えられ、本来なら行われるべきではない一戦である。より小柄なロマチェンコが相手でも、打たれ続け、ダメージを溜め込むリスクは否定できない。しかし、生き馬の目を抜くようなボクシングビジネスには往々にしてモラルは存在しない。


 私たちにできるのは、スーパースターの行方を見つめ続けることだけ。相手がクロフォードでも、それ以外の選手でも、遅かれ早かれ、凄惨(せいさん)な瞬間は恐らくやってくる。ホーン戦後にも記した通り、“パッキャオの時代”を共に生きてきたボクシングファンは、いずれ胸が痛くなるようなシーンを目撃することを覚悟しておかなければならないのである。

杉浦大介
杉浦大介

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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