【ボクシング】パッキャオの“不当判定”に米国は紛糾 それでも抗えない限界論と二足のわらじ

杉浦大介

米国内ではほとんどがパッキャオ勝利の判定

“フィリピンの英雄”パッキャオの判定負けに、米国では不当判定と紛糾した 【Getty Images】

 米国ではおおかたの関係者が、マニー・パッキャオ(フィリピン)がジェフ・ホーン(オーストラリア)に勝っていたと見ていることは記しておきたい。

 現地7月2日、オーストラリアのブリスベンで行われたプロボクシングのWBO世界ウェルター級タイトルマッチで、6階級制覇王者のパッキャオはホーンに0−3(113−115が2人、111−117が1人)の判定負け。この採点に納得いかないメディア、ファンはソーシャルメディア上で“不当判定”だと騒ぎ、米国内で試合を生中継したESPN上でもコメンテーターたちが延々と議論を続けた。

「ジャッジの採点だからリスペクトする。(ホーンの)パワーは感じた。強い選手だった。9ラウンドにKOしようとしたが、彼は生き残った」

 当のパッキャオはテレビのインタビューでそう語り、判定結果を受けいれているようにも見えた。筆者もより的確だったパッキャオがやや優勢と感じたが、優劣の難しいラウンドが多く、そこまで紛糾するほどの採点とは思わなかった。

 ただ、ざっと見渡した限り、米国のメディア、関係者の中でホーン勝利と見たのは115−114と採点した元2階級制覇王者のポーリー・マリナッジ(現解説者)だけ。『ESPN.com』のダン・レイフィール記者が117−111でパッキャオとしたのを始め、9割以上がフィリピンの英雄の勝利を支持していた。114−114のドローとつけた人もいたが、ごく少数派だった。

『CompuBox』が集計したヒット数で182−92とパッキャオが大きく上回っていたこと、9ラウンド終了後にはレフェリーがストップを望んだほどのダメージをホーンが負っていたことなど、特に111−117というスコアに疑問を感じる理由は存在する。少なくとも米国内で、パッキャオのファイトとしては、この試合は2012年のティモシー・ブラッドリー(米国)戦と並ぶ疑惑の判定として記憶されることになりそうだ。

もはやトップファイターの動きではなかった

過去のパッキャオに比べてしまうと、今回の試合の出来が悪かったことは確かだ 【Getty Images】

 もっとも、判定問題は別にして、約5万1000人の大観衆を動員した今戦でのパッキャオの出来が極めて悪かったことは誰にも否定できまい。

 全盛期のスピード、キレ、フットワークは失われ、サイズと馬力で上回るホーンに大苦戦。度重なるバッティングで激しく出血する不運があったとはいえ、世界レベルでの実績に乏しく、目立ったスキルも感じられない無名選手の右を盛んに浴びる姿は印象が悪かった。

 9ラウンドには左をヒットしてホーンをグロッキーにさせたが、大振りを繰り返して逆に打ち疲れ。そんな姿からも、調整不足は明白だった。かつてはフルラウンドに渡って風車のように連打を続けたパッキャオが、今戦の終盤は流すしかなかったことは象徴的と言えたのかもしれない。
「10年前までさかのぼらずとも、3〜5年前のパッキャオならこの相手は倒せていたはずだ」。ESPNの解説を務めたテディ・アトラス氏のそんなコメントにうなずくファンも多いだろう。

 すでに38歳になったパッキャオの衰えが指摘され始めたのは最近の話ではないが、ホーン戦での動きはもはやトップファイターのものではなかった。09年以来のKO勝ちも予想されたファイトでこれだけ苦しんだのであれば、“限界論”が出てくるのも仕方ない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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