攻撃的なチーム同士のきっ抗したゲーム 天皇杯漫遊記2018 FC琉球対FC今治
1年前と同じく延長戦&PK戦へ
延長後半終了間際に劇的な同点ゴールを決めた有間は、足がつって倒れ込んでしまう 【宇都宮徹壱】
ハーフタイム、今治は右のワイドの桑島良汰に代えて有間潤を投入する。有間は十分にスタメンを張れるFWだが、吉武博文監督は延長戦の可能性を考慮して温存していたようだ。この交代が反撃のスイッチとなり、後半の今治は積極的に相手陣内で仕掛けるようになる。ここで立ちはだかったのが、琉球の守護神でキャプテンの朴一圭。後半だけで、相手の至近距離からのシュートを2本止めた。もちろん琉球も、ボールを奪えばすぐさま反撃。右MFの富樫佑太、そしてトップ下の枝本雄一郎が積極的にゴールを狙うも、こちらも今治の組織的な守備に阻まれてしまう。結局、昨年に続いて90分間で決着がつくことはなかった。
延長戦に入ると、琉球ベンチは満を持して播戸をピッチに送り出す。リーグ戦では、いつも後半の20分から25分での出番が多く、マックスでの稼働時間は30分。キム・ジョンソン監督は「ここが勝負」と考えたのだろう。そして延長前半2分、琉球は中央からパスをつないで、最後は中川風希の右足が待望の先制ゴールを呼び込んだ。ただし、残り時間が微妙に長い。本来の琉球であれば、さらに攻め続けることを選んだだろう。だが、この時すでに選手たちは、深刻なスタミナ切れを起こしていた。そしてそれは、播戸ひとりでどうにかなる問題でもなかった。1点差では不安だが、2点目を取りにいけるだけの推進力がない。その後の琉球のプレーは、非常に中途半端なものに終止した。
延長後半9分、試合は劇的に動く。足が止まった琉球に対し、今治は持ち前のポゼッションサッカーをフル稼働させて、ついに同点に追いつくことに成功。片岡爽からロビングのパスを受けた、途中出場の西埜植颯斗が左サイドから倒れ込むように折り返し、最後は有間の左足ワンタッチでネットを揺らす。しかし次の瞬間、有間は左足をつってしまい、ゴールの喜びを表現することはできなかった。120分が終了して1−1。決着は2年連続でPK戦に委ねられることになる。そして琉球は6人目のキッカーが失敗したのに対し、今治は全員が成功させて、昨年に続いての2回戦進出を果たすこととなった。
なぜ琉球は足が止まってしまったのか?
車いす姿で試合後の会見に臨んだ今治の吉武監督。「運が良かった」と笑顔で語る 【宇都宮徹壱】
「何をとっても相手を上回る面が見つからなかった。実力的にはきっ抗したレベルでしたが、ウチの選手のほうが(先に)足をつってしまいました。PK戦(の結果)は運はでなく、運以外での差が出たと思います」(キム・ジョンソン監督)
試合後の会見。今治の吉武監督は、車いす姿で登場して記者たちを驚かせた。なんでも「スタッフとのレクリエーションでアキレス腱を切った」のだそうで、現在は入院中。この日も外出許可をとって沖縄までやって来たそうだ。かような覚悟をもって臨んだ試合で、このような劇的な結果を出すことができたのだから、痛々しい姿でも笑顔がこぼれるのも当然だろう。6月6日の2回戦の相手は、清水エスパルス。天皇杯でJ1勢と対戦するのは、12年の広島以来6年ぶりのことである。確かにそちらも楽しみだが、来週末のHonda FCとのリーグ戦でも、今日の結果がよい流れとなることを願いたい。
それにしても気になったのが、90分を過ぎてから琉球の足がぱったり止まってしまった理由である。ひとつには、今治のパス回しに必要以上に走らされてしまったことが考えられる。とはいえ、ホームとは思えぬ彼らの消耗ぶりには、それだけでは説明し切れない「何か」が感じられた。ヒントを与えてくれたのが、現地在住の琉球サポーター。いわく「こっちは本州よりも早く暑くなるので、夏場の疲れがこの時期に来るんですよね。ここを超えたら、だいぶ楽になるんですけど」。なるほど、そういうことか。逆に日中の試合だったら、今治のほうが先に足が止まっていたかもしれない。その点でも今治は「運が良かった」と言えそうだ。
ところで今大会は、ルール面で重要な改定があった。それは、延長戦での4人目の交代が可能となったこと、そしてPK戦で「ABBA方式」が採用されたことである。いずれもW杯ロシア大会で採用されるルールだが、この試合で一度に拝むことができて、何やら得した気分になった。ちなみに両監督の感想は「90分間で3人を(交代枠で)使えて、延長戦で1人というのは分かりやすい」(吉武監督)、「PK戦では優位になったり追い込まれたり、気持ちの部分で慣れていないところがあった」(キム・ジョンソン監督)というものであった。
試合が終わったのは22時過ぎで、撤収したのは23時。すでにバスは終わっていたが、幸い番記者の方に車で送ってもらって事なきを得た。天皇杯1回戦の取材で、これほど深い時間となったのは、ある意味貴重な体験である。それでも、何かと見どころが多く、取材する価値が十分に感じられた好ゲームであった。