[金曜特別コラム]最先端レフェリング論(5) 日本人レフェリーの世界的レベルは?
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日本人レフェリーが世界で活躍するために必要なものとは?
日本人主審がW杯の舞台で笛を吹いたのは、2014年W杯開幕戦の西村雄一主審(右から3人目)が最後だ 【Photo by Dennis Grombkowski - FIFA/FIFA via Getty Images】
これまで岡田正義や西村雄一など、計11人の日本人審判員がW杯に登録された。カタールW杯では山下良美など3人の女性主審が史上初めて選出されて大きな話題になった。
ただし、W杯審判員に選ばれてもピッチに立てるとは限らない。そこからさらに激しい競争を勝ち上がらないと、W杯で試合を担当することはできない。
今後、日本人レフェリーが世界で活躍するには何が必要なのか? Jリーグだけでなく国際大会で活躍する荒木友輔主審に話を聞いた。
「アジアではとにかく強く出るように言われている」
国際大会で活躍する荒木主審に、日本人レフェリーの現在地を聞いた 【スポーツナビ】
間違いなく違いますね。たとえば国際大会だとペナルティエリアの事象に対してより近くで見ることが求められます。PKをジャッジするとき、「そこに主審がいたんだったら仕方がないよね」と言わせられるかがポイント。AFC(アジアサッカー連盟)の審判インストラクターが試合を担当したレフェリーを採点するんですが、ペナルティエリアの事象をより近くで見られると高評価につながります。
あとこれはアジア特有かもしれませんが、アジアカップでは選手対応でとにかく強く出るように言われます。中東の選手は感情をアグレッシブに出すので、毅然と対応しなければならない。そういう対応の強さも評価対象です。
――連載第1回で佐藤隆治さん(JFA審判マネジャー)がレフェリーの存在感を「プレゼンス」と表現し、「体をしっかりつくって見た目を良くするのは大事だと言われている」というトレンドを教えてくれました。
そういう傾向があると思います。ただ、アジアはヨーロッパの審判のように上半身をガンガン鍛える人は少ない印象で、足の速さや読みの速さが存在感につながっていると思います。
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そうですね。アジアカップ前のプラクティカルトレーニングでもカウンターアタックの局面をひたすら繰り返す練習をやりました。それを審判インストラクターがスタンドからメモ片手に見ていたので、審判たちの走力をチェックしていたんだと思います。
――試合のインテンシティが上がっており、そのトレンドがレフェリー業界にも影響しているわけですね。
それについてはFIFAがはっきりと方針として打ち出しています。FIFAが言っているのは「とにかくペナルティエリアでの事象を正しく判断する」、「できる限りVARを使わずに現場で正しいジャッジをする」ということ。とにかくレフェリーにも走力が求められるようになっています。
実際、僕が2023年にアルゼンチンで開催されたU20W杯に参加したとき、試合におけるレフェリーの走行距離やスプリント数が計測され、全員にデータが提示されました。審判のためにフィットネスインストラクターが帯同して、彼が数値をチェックしていました。
――レフェリーもスプリント数が重視される時代なんですね!
U20W杯でトーナメントを担当したレフェリーは、軒並みスプリント数などのフィットネスデータが高かったです。決して僕の数値が低かったわけではなかったんですが、トーナメントを担当したレフェリーの数値はさらに高かったんです。
特に驚かされたのがブラジルのラモン・アバティ主審でした。最高速度が時速30km以上で、僕は「原付より速いレフェリー」と呼んでいました(笑)。彼はパリ五輪の審判リストに名を連ねています。
――スプリントを繰り返すと心拍数が上がるので、その中で正確な判断をしていくのはものすごく難しそうですね。
ただ、ラモンさんは走行距離は短いんですよ。U20W杯で僕の1試合あたりの走行距離は12キロくらいで、僕の方がラモンさんより長い距離を走っていたんですが、スプリントの回数はラモンさんの方が上でした。僕も0から100のスピードをもっともっと出していかないと、彼らとの競争に勝てないと思いました。
90分間、高速度を出し続けるために、もっとフィジカルレベルを上げていかなければならない。世界のスタンダードを理解しないと遅れを取ってしまいます。
――フィジカル面の負担が増え、今後は試合中に負傷するレフェリーが増えていきそうですね。
レフェリーの現役期間はより短命になっていくと思います。昔は50歳前後まで笛を吹けましたが、現代はフィジカル面の消耗が大きくなっているので、引退の平均年齢が下がっていくのではないでしょうか。