FC東京GMからベルギー1部のCEOへ
日本人経営者が欧州で活躍すべき理由
1月よりベルギー1部シントトロイデンの最高経営責任者に就任した立石
1月よりベルギー1部シントトロイデンの最高経営責任者に就任した立石【写真提供:シント=トロイデンVV】

 2018年1月29日、FC東京の元GM(ゼネラルマネージャー)・立石敬之がベルギー1部シントトロイデンの最高経営責任者(CEO)に就任することが発表された。シントトロイデンは17年11月に日本企業のDMMグループが経営権を取得したばかりのクラブだ。


 楽天が名門バルセロナと強固な関係性を築いているように、日本企業が海外クラブのトップスポンサーとなるパターンはこれまでも見られた。しかし、今回はクラブの買収。さらにDMMは、ほぼ同時期に「日本サッカー欧州拠点化プロジェクト」なるものも立ち上げている。クラブ買収劇とプロジェクトの立ち上げ――その両者を陰で支えたのが立石だった。


 立石は大分トリニータやFC東京で主に強化部長として実績を残し、10年にはのちにインテルへと続く長友佑都のチェゼーナ移籍を手掛けるなど、主に「チーム編成」を主戦場としていた。近年はGMとして活躍の場を広げ、今季好調のFC東京に長谷川健太監督を呼び寄せた張本人でもある。


 日本では十分な実績を誇る立石だったが、新たな挑戦をすべくベルギーへと渡った。「サッカーの中心地」での生活が約4カ月経過したタイミングで、本人に話を聞く機会を得た。11年もの時を過ごしたクラブを後にしても異国の地へと渡る決断をした背景には、並々ならぬ思いと野望があったようだ。(取材日:5月1日)

フロントが海外で戦えなければいけない

――昨年の12月にFC東京のGMを退任し、シントトロイデンのCEOに至った経緯をあらためて教えてください。


 日本人選手が海外進出をしていく一方、フロントや指導者は海外で活躍する機会をなかなか得られない現状があります。ルール上、指導者は難しい部分もあるのですが。(FIFA)ランキングにも表れているかもしれませんが、日本サッカーの質の向上を考えると、フロントや指導者が海外の一線で戦えるようにならなければいけないと考えていました。以前からそんな話をいろいろな方としていたのですが、DMMが賛同してくださって、シントトロイデンというクラブを買収するという投資に至りました。


 実際に買収が完了したのは(2017年)11月15日だったのですが、FC東京の仕事があったので、DMMが主導で動いていただき、買収にあたって「こういうクラブの方がいいのではないですか?」というようなアドバイスはしていました。


 そこからは想像以上のスピードでトントン拍子に買収が進んだので、買収の直後ぐらいに具体的なオファーをいただきました。そこがFC東京との契約更新のタイミングでもあり、大金(直樹)社長にも相談して、「こういう機会はなかなかないのでチャレンジをさせてほしい」という話をした上で12月の中旬くらいに決めて、2018年2月からこちらへやってきました。


――アドバイザー視点だったものを、自分がチャレンジしようと思いが切り替わった瞬間はいつだったのでしょうか?


 正直に言って、12月の頭ぐらいまでは踏ん切りがつきませんでした。FC東京のチーム作りもやり残したことがありましたし、(日本サッカー欧州拠点化プロジェクトが形になってきた)11月には編成が佳境を迎えていました。いま監督をしていただいている(長谷川)健太さんを中心に人事も決まっていましたし、早めに発表も済ませていました。11月15日にいよいよシントトロイデンの買収が完了し、その直前には「買収が完了できた場合はお願いしますね」とオファーはいただいていました。


 ただ、僕も正直なかなか返事ができなくて。家族のこともありましたし、自分がFC東京を離れていいのかという思いもありました。でも(決意した)一番の理由は、日本人が海外でクラブ経営幹部のポジションで仕事をさせてもらえる機会はそうそうないだろうと思ったことですね。私はいま48歳で、いまなら海外でしっかりと働いて、その経験を日本に還元できるくらいの期間がある。行くのであれば今しかない、もうチャンスはないだろうという思いはありましたね。


 あともう一つ、日本のA代表もアンダーカテゴリーも少し成長が止まっていると感じていました。選手や指導者、マネジメントも含めて、何かしらの改革が必要で、成長していかなければならない。飛躍的な成長をするための正解はまだ探している状況ですが、これが一つのきっかけやアイデアになればいいかなと思っています。


――FC東京にとっては突然の人事となったわけですね。


 そうですね。ほぼ編成は終わっていたので引き継ぎながら。ある程度「来年は戦ってくれるだろうな」という期待はありつつも、寂しさは正直すごくありました。立場的にも情報が漏れると問題ですから、僕が連れてきた選手やスタッフを中心に、ごく近しい人にしか伝えませんでした。


 まずは健太さんに話したんですよね。僕が誘った人間でもありますから反対はされましたけれど、いろいろな話をして最終的には理解していただきました。その後、選手には1人1人話していきましたね。そこはすごく時間がかかったし、僕にとってはデリケートな部分でした。


 ファン・サポーターの方々にはホームページでしか言葉を伝えられなかったんです。チームづくりに一番影響がないタイミングを選んだため、発表は年末になってしまいました。僕も今はどちらかというとサポーター目線で見ていますが、悲願のJリーグ制覇に向けてみんなで喜びを分かち合えるように頑張ってほしいですね。個人としてはもう少しいろいろな人に挨拶(あいさつ)はしたかったです。


――フロントが海外で戦えなければいけないという思いはいつごろから?


 長友佑都たちが海外へ行ったころなので、2010年ですね。あのころから海外クラブとの交渉が増え出して、日本人選手をいい形で送り出したり、その先で活躍をする姿を見てきました。交渉相手は外国人ですが、同じサッカー界で仕事をしていますので、ルールなどの細かい部分は異なりますが、業務内容としては正直大きく変わらない。言葉の壁はもちろんありますし、考え方や文化の違い、各国のローカルルールはありますが。日本人がというよりは、アジアサッカーの関係者がもう少し海外に出ていかなければという思いが、交渉をしているうちに出てきました。


 あとは、日本人選手が海外に行ったけれど出られなくてすぐに帰国してしまうパターンを減らしたいという思いもありました。先日もルーマニアの代表監督と話をしたのですが、同じことを言っていました。「ルーマニアだって海外に選手を出したほうが代表にとってはいいでしょ?」と聞いたら、「いや逆だよ。ルーマニアも小国だから海外に移籍して試合に出られない選手が多くなると強化が難しい」と。今の日本代表と似ていて、試合経験が少なくなってしまう課題があるみたいですね。その課題をなくしたい。本当に1発目が重要です。まずは、海外で試合に出るというワンクッションが必要だと僕は思っています。鎌田大地や関根貴大などはいまヨーロッパに来て苦戦していますが、原口(元気)のように(活躍するのは)2部だっていいんです。


――まさに立石さんが移籍をアレンジした長友のパターンですね。そのときはチェゼーナでしたが、ワンクッションが重要だというのはあのときに感じたのですか?


 重要なのは「やれる」という自信ですよね。移籍して最初の2年間試合に出られないと、やっぱり選手は気持ちが折れてしまいます。で、気持ちが折れた後に日本に帰ったとしても、厳しい面はありますよね。心身ともに復活するまで、相当に苦労している印象です。


 あとは言葉ですね。佑都も言葉をかなり覚えてからインテルに行ったことがよかった。同じリーグ内での移籍だったので、対戦相手も変わらなかったですし。シントトロイデンの場合、街の公用語はオランダ語ですが、コミュニケーションを円滑する意味でも、チーム内では主に英語を使っています。

日本人をピッチに立たせるのとクラブ経営は裏腹

ベルギーリーグとJリーグ。「最初は比較するのにすごく時間がかかった」という
ベルギーリーグとJリーグ。「最初は比較するのにすごく時間がかかった」という【Getty Images】

――ベルギーリーグのイメージは、日本にいたときから変化はありましたか?


 最初は比較するのにすごく時間がかかりましたね。「Jリーグとベルギーリーグどちらが上か?」とよく聞かれるのですが、正直(試合を)やってみないと僕ですら分からないんです。望まれていることが違いますし、フットボールのあり方ややり方まで、です。もちろんクラブの規模が異なる(強豪の)アンデルレヒトのサポーターであれば「優勝しかない」という感じでしょうが、上位の大きいクラブ以外は毎年優勝しなければいけないなんて誰も思っていない。


 編成ひとつとっても本当に違います。国籍が入り乱れているこの国と、島国である日本に外国人がフィットしていくJリーグとでは全然違います。たとえば身体的な特徴も違いますし、何カ国語も使う選手がいる中で通訳なんて1人もいませんので、グループのまとめ方も変わってきます。どちらが正しいとかではなくて、違う視点でフットボールを見ている感覚です。


 1番違うのは、若い選手の起用促進です。分配金の制度にも育成のポイントが加算されますし、税法上、23歳以下の選手をある一定以上の割合で雇っていくと還付金が返ってくるんです。還付金でまた育成に投資しなさいという目的を、国が方針として持っているということですよね。リーグや協会と国が、それぐらいの目線で一体感を持ってやっているということです。日本ではなかなか実現しにくいことですよね。これはさすがにびっくりしました。


 サポーターも選手が移籍することに恐怖感が少ないです。日本だと、良い選手を売ってしまうとサポーターも「なんで売るんだ!」となるじゃないですか。こっちは毎年5〜6人は選手が入れ替わるので、サポーターもステップアップだと理解している。チーム作りという意味では、監督はすごく大変だと思います。言葉が違う、選手も毎年入れ替わる、しかも若い選手がたくさん入ってくるという条件なので、監督の仕事難易度は非常に高いと思います。


――そんな環境の中、地域に根ざしたクラブづくりも求められている。


 そうなんですよ。お客さんは選手に愛着を持ってスタジアムにくる中で、サポーターに愛されている選手が毎年出ていくわけです。チームを応援してくれてはいるのですが、応援していた選手が抜けて新しい選手が入ってくると、どうしても愛着が薄れてしまいますよね。そこは一番の課題ですね。ベルギーリーグの集客が増えないのは、選手の回転が早すぎて、選手に対する愛着や認知度が非常に低いからだと、実際に来てみて感じましたね。


――そうした課題感を経営者として抱きつつも、立石さんの場合は日本人選手のステップアップにクラブを活用してほしいという思いもあるわけですよね。この2つはかなり反する部分があると思うのですが、どのようなビジョンを描いているのでしょうか?


 まさにそうですね。日本人選手をピッチに立たせるのとクラブ経営は本当に裏腹なんですよ。ですので、アカデミーや地元選手、または隣町でのマーケティングを強めるなどの施策を同時進行で力を入れなければいけないと思っています。やはり、日本人を獲得したことばかりがクローズアップされてしまうので、アカデミーの選手を1人でも多く上にあげることに投資したり、強調しながら進めています。


 日本色はどうしても出てしまうし、「日本人選手が来るんですか?」といった質問も非常に多いです。日本側のスタッフは5人で、そのうち日本人は4人しかいないのですが、事実として日本人がオーナーですので。

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