FC東京GMからベルギー1部のCEOへ 日本人経営者が欧州で活躍すべき理由

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来シーズンからはかなりイメージが変わる

CEOながら、立石(中央)の業務内容は多岐に渡る。写真はスクール参加時のもの 【写真提供:シント=トロイデンVV】

――監督やコーチ陣は、「日本サッカー欧州拠点化プロジェクト」に対してどれだけ理解されているのでしょうか?

 今いるチームのスタッフや選手の契約にはまったく関わっていなくて、彼らは自分が入る前からいるメンバーです。僕が実際にチームの体制づくりに携われるのは来シーズンからになります。まさに今どのような契約を結んでいるのか契約書を読みあさって把握している状況です。

 この2〜3カ月は冷静に今の戦力を分析してきました。彼らの契約前に僕がタスクを与えたわけではなく、就任して7〜8カ月経ってから僕がやってきたわけですから、何も言わずに冷静に見させていただいています。

――来季の人事以外では、具体的にどのようなことを行っていますか?

 ビジネスサイドでは、年間チケットの発売日や価格設定、スポンサーとの交渉。アカデミーにおいては、ユースのスタッフ人事、サッカースクールの施設整備。運営面では、スタジアムが以前のオーナーの所有のままなので、その調整。スタジアムはUEFA(欧州サッカー連盟)のリーグに出られる規定をまだ満たすことができていないんですよ。あとはユニホームのサプライヤーを含めた調整とか、来季に向けたキャンプ地やプレシーズンマッチの調整だったり、トップチームにおいては監督・スタッフの人事や選手編成が大詰めの時期です。日本企業からスポンサードのお話もいくつかいただいていて、ユニホームスポンサーに入れることも考えています。

 来シーズンからはチーム内外含めてかなりイメージが変わると思いますね。ここ2〜3カ月は静かに進めてきましたので。クラブ間の契約も(ファジアーノ)岡山、大分、FC東京と提携していますので、注目していただけています。

 あとは、Jリーグのクラブからスカウトの協力依頼なども来ています。オランダやベルギー近辺の選手のリストアップなども行っています。Jリーグが選抜チームを連れてきたときに連絡をもらったり、協会ともいろいろな情報交換を行っていますし、ベルギーにいる日本人選手たちの状態などもディスカッションしています。

――来季にクラブがガラッと変わる上で、地元からの反発の声が上がるなどの懸念はないのでしょうか?

 買収当初は広報担当を立てて地元メディアのインタビューにも頻繁に答えていましたし、5つの柱(トップチーム強化、アカデミー充実、運営、ビジネス、スタジアムの技術革新)を打ち出しているので、受け止めていただけている感じです。あとは地元の人たちと共存しながら仕事をしています。現場のコーチを除き、事業部と強化部に15名ほどのスタッフがおり、日本のように部署を作り部長会を開くなど組織としても整備しています。

 その結果、「プロの組織になってきたよね」というような評価もいただいていますが、むしろ「どうなるの?」という良い意味での期待感が大きいような状況です。ビッグネームの選手を連れてくるんじゃないかとか(笑)。そうではないよと伝えてはいますが、いっぱいプレゼントを持ってくると思われている感はありますね。それはファン・サポーターもそうですし、育成スタッフなど内部に関してもそうですね。

選手の起用法も監督と話す

けがから復帰した富安。徐々にチームの戦力として活躍を見せてきているようだ 【写真提供:シント=トロイデンVV】

――CEOの就任が発表される直前の1月8日に富安健洋選手の加入が発表されました。この移籍には関わっていたのでしょうか?

 もちろん獲得する方針は知っていました。ただ交渉に関しては、1月に入って、最後の締めの部分だけ関わりました。具体的には、けがをしていたのでメディカルチェックに引っかかっていたのですが、僕がクラブ間で話をして最後の確認作業などはしましたね。最初の部分はDMMの担当者が行っていました。

――けがの回復具合は?

 多少違和感は残っているようですが、もう問題ないレベルですね。90分間やれるコンディションですし、練習試合やBチームの試合にはほぼフル出場しています。(編注:5月12日のアントワープ戦でトップチーム公式戦デビューを果たした)

――チームへの溶け込み具合は?

 Bチームレベルでは余裕を持ってプレーしていますね。トップチームではまだ遠慮している感じがあります。ディフェンスなので声だったり、信頼感だったり。力的にはやれるんじゃないかなと思って見ています。前目の選手だったら5〜10分使いながら様子を見ることもできますが、後ろの選手なので、どこで信頼をつかむかですね。

――そういった選手の采配に関して、立石さんはどの程度関与されているのでしょうか?

 大枠は(現場に)言いますよ。こうしたらいいんじゃないかと。スカウトに関してもこういう選手がほしいなどは担当に伝えるレベルです。実際に交渉をしたりはしていないですね。近いクラブの選手だったら見に行ったりもできますが。選手の起用法も監督とは話します。冨安に関しても、「確かに今の内容だと代えるのは無理だよね」といった感じでディスカッションをしています。

グルーバルに考えて、ローカルに行動する

――ベルギーに限らず、欧州の各クラブとの交流や人脈作りなども活発に行われているのですか?

 していますね。PSGとか、マンチェスター・シティやリバプール、ドイツのクラブもいくつか行ってGMや強化部長、チーフスカウトなどと話をしてきました。少しずつ関係性を構築しています。ピンポイントにどこのクラブとどういう組み合わせで何をしたらいいのか、ということは常に考えています。

――クラブが目指すビジョンについて、モデルにしているクラブなどはあるのでしょうか?

 イメージはないです。というより、比較するものがなくて、まったく新しい形なんですね。今までになかったようなお金の集め方や、チームの作り方を目指しています。

 僕らは2つのことを同時に大事にしなければいけない。1つは地元を大事にすること。シントトロイデンを州の中で1番にすること。隣にゲンクという大きなクラブがありますが、州都のハッセルクや隣町の人々をゲンクではなく、どうやってこちらを応援していただくか。育成の部分はFC東京や大分でやってきて自分自身の強みだと思っているので、その部分を打ち出して、まずは地元の方に認めていただく。その上で、引退した選手などを指導者やマネジメントのスタッフに引き上げて、自分たちのチーム中で人材育成も進めていきたいですね。

 もう1つは、日本にとどまらずアジア方面にマーケットを広げていきたい。ベルギーにいるといえども、僕らの得意分野はアジアのマーケットなので、ベルギーのトップ5のクラブと同じマーケットで勝負していたら選手は取れないと思っています。ベルギーで常勝、優勝するクラブではなかったとしても、アジアの中で人気のあるクラブになれればいい。たとえば、中田英寿が移籍したことで多くの日本人がペルージャを知っているように、強くなくても認知度が高いクラブになれるよう、アジア全体を見据えてマーケティングしていきたいと考えています。

――ヨーロッパで日本人が最高経営者として活躍する機会はこれまでありませんでした。そのあたりの意義はどのように感じていますか?

 僕が強化部長やGMだったらなんとなくイメージは湧きますよね。経営者ということで、半分以上はこれまでと違う仕事をしていますが、そこに強化やGM視点のアイデアを持ち込める。前例があまりない立場ですので、可能性を感じています。

 これまでもグルノーブルやホルンやサバデルなど、日本人が投資したクラブはあって、僕もいろいろ勉強していますが、あまり続かなかった印象もあります。もちろんそれぞれに事情は違うのですが。もう少し地元に根ざして長期的に継続しつつ、アジアのマーケットをこちらに引き込めるだけの組織力も徐々についてきていると思うので、そこも含めて整備しながらやっていけたらいいかなと思います。どちらが先になるのかは分かりませんが、資金がないとチームは強くなりませんので、まずはそちらだろうなと思っています。

 継続的にチームを強化していくためにどうやってお金を集めるべきかについてですが、ベルギーの国内に新たな財源を見つけるのは難しいでしょう。国外から持ってこなければいけない。ただ、地元の営業は小さなスポンサーでも大事にしなければいけませんから、地元の営業とアジアの展開は完全に別物だと考えています。グルーバルに考えながらも、ローカルに行動することが重要だと思っています。

(取材・文:澤田和輝/スポーツナビ)

立石敬之プロフィール

【選手歴】
国見高校 ⇒ 創価大学 ⇒ ノロエスチ(ブラジル) ⇒ ベルマーレ平塚 ⇒ 東京ガスサッカー部 ⇒ 大分FC / 大分トリニータ
【略歴】
2003:大分トリニータ 総務部長
2004:大分トリニータ 強化部長
2005:大分トリニータ コーチ
2006:エラス・ヴェローナ FC(イタリア) アシスタントコーチ
2007-2010:FC東京 強化部
2011-2014:FC東京 強化部長
2015-2017:FC東京 ゼネラルマネージャー

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