岡崎慎司、集大成のロシアW杯へ さまざまな思いに揺れた8カ月間

田嶋コウスケ

サウジアラビア戦後、代表から遠のいた岡崎

代表を外れ、さまざまな思いに揺れた岡崎の8カ月間を振り返る 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督時代で、岡崎慎司が最後に日本代表の招集を受けたのは、昨年8、9月に行われたワールドカップ(W杯)アジア最終予選のオーストラリア戦とサウジアラビア戦に向けてだった。10月に行われたニュージーランド、ハイチとの強化試合以降、岡崎は代表から遠のくことになった。

 しかし、今年4月にハリルホジッチ監督が解任され、新たに西野朗監督が就任すると風向きは大きく変わる。18日に発表された27名の代表メンバーとして、岡崎は8カ月ぶりに復帰を果たした。もちろん、W杯ロシア大会に臨む23名の最終メンバーに絞り込まれるが、2017年10月と11月、18年3月と過去3回の強化試合に未招集だった岡崎は、自身3度目となるW杯出場に向けて大きなチャンスをつかんだ。

 この8カ月間、イングランドで現地取材を続けてきた筆者は、岡崎の葛藤を目の当たりにしてきた。「代表とプレミアは別の話」と日本代表と距離を置いたかと思えば、昨年11月のブラジルとベルギー戦後には「代表に自分がいないことが腹立たしい」と代表への熱い思いを口にしたこともあった。さらに、ハリルホジッチ解任後には「自分にとっては大きな変化になるかもしれないので、チャンスとして捉えるべき」と、代表復帰に希望を膨らませた。さまざまな思いに揺れた8カ月間を振り返りたい。

昨年11月の現状分析で「(落選は)妥当じゃないか」

開幕から好調だったが、代表にはレスターでやっているポジションがなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 思い返せば、昨年10月時点で、岡崎はプレミアリーグ第7節までに3ゴールを挙げ、レスター加入以来最高のスタートを切っていた。コンディション、体のキレともに好調だったが、継続的に呼ばれてきた日本代表から、なぜか声が掛からなかった。このとき、ハリルホジッチ監督は招集を見送った理由について「杉本(健勇)と武藤(嘉紀)にチャンスを与えたいと思った」とし、若手をテストしたいと説明した。

 しかし、翌月に行われたブラジル、ベルギーとの強化試合でも招集されなかった。岡崎はプレミアリーグでさらに1ゴールを追加し、得点数を4ゴールまで伸ばしていた。2桁得点への期待が高まるほど、レスターで好調を維持していたのだ。

 このときは本田圭佑、香川真司も合わせて代表から落選し波紋を呼んだ。ハリルホジッチ監督は3人の落選について「彼らの本来のパフォーマンスを見つけるべき。他の選手よりもいいパフォーマンスを見せてくれたらここ(代表)にいる」と説明した。

 このメンバー発表から4日後の11月4日。岡崎から詳しく話を聞く機会を得た。彼らしく、まずは冷静に自分の状況を分析した。

「(システムが)4−3−3とか、ハリルホジッチ監督は明確に『(ボールを)取って速いサッカー』でいくと決めている。選手も守備的な選手がたくさんいるし、タイプの似ている選手も多い。監督のやりたいサッカーがハッキリ分かりますよね。だけど今、レスターで自分がやっているようなポジションは代表にないので。

 単純に(W杯アジア最終予選の)オーストラリア戦の良かった基準で、チームを編成していると思う。そのなかで、自分や真司、圭佑もそうですけれど、当然、今まで呼ばれてきたから、(落選に)違和感はあるかもしれない。だけど、監督はすでに1、2年かけて代表を変えようとしてきたと思う。僕について言えば、W杯予選で使われていなかったのをみると、そういう立ち位置だと思っていた。W杯予選中にメンバーを変えるというのは、監督もできなかったと思う。そういう意味では、(落選は)妥当じゃないか」

日本代表と少し距離を置くような発言が増える

 ちょうどこの頃からだろうか。自分の立ち位置として、岡崎は日本代表と少し距離を置くようになった。もちろん、こちらが質問すれば、丁寧に答えてくれる。だが、W杯や日本代表だけがすべてではない。自分にはプレミアリーグでの戦いがあると、そう話すようになった。このときも、次のように言葉をつないだ。

「もちろんW杯に出たいですけれど、それが全てとは思っていない。日本だけで見れば『W杯がやっぱり一番』という考えはあるかもしれないけれど。そもそも海外に来ているのも、海外でチャレンジしたいから来ているわけで。海外でやるのと、W杯に出るのは別の話。呼ばれれば、やっぱり日本のために頑張りたい。でも、呼ばれなかったら、ないものと思っている。

 そういう意味では、W杯に出たいから、プレーを(ハリルホジッチの志向に)合わせていくというのではなくて、自分が今ここでぶつかっている課題としっかり向き合って戦う。そして、プレミアリーグで結果を出す。だから、呼ばれた、呼ばれないでは、あまり考えていない。プレミアリーグでやれたらいい、というのもあるし。まあ、シンプルですね。プレミアリーグで戦うことに楽しみがある」

 岡崎の言っていることは確かに正しい。彼が身を置いているのは世界最高峰の舞台、プレミアリーグだ。W杯出場がかなわなければ、プレミアリーグに集中していけばいい。そう言いたかったのだろう。

 しかし、何度も何度も繰り返される「W杯」のフレーズに、むしろ岡崎がW杯を強く意識しているのが伝わってきた。W杯に出たい。選手なら当然のことだ。しかし、それがかなわないなら仕方がない。発せられる言葉から、岡崎の葛藤が垣間見えた気がした。

プレミア移籍はW杯での悔しい思いがあったから

岡崎がレスターに移籍したのは、W杯ブラジル大会での悔しい思いがあったから 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 振り返れば、岡崎がプレミアリーグに渡ったそもそもの動機が、W杯ブラジル大会での惨敗にあった。13−14シーズンにブンデスリーガのマインツで15ゴールを挙げ、意気揚々と決戦の地ブラジルに乗り込んだ。しかし、自身は1ゴールに終わり、日本代表も1分け2敗の最下位でグループリーグ敗退が決まった。「何やってんだろ、俺ら」。そんなやるせない気持ちになったという。

 それから1年後──。岡崎は海を渡り、サッカーの母国イングランドにやって来た。プレミアは日本人FWにとって成功例のない鬼門だが、岡崎は移籍会見の席で「自分はその答えを見つけに来た」と語り、次のように言葉をつないだ。

「プレミアリーグに行くチャンスは、誰もがつかめるものではない。日本人としてもそうですし、ブンデスリーガからプレミアに行った選手が苦労しているのを見ても、『何かあるんじゃないかな』と。『ここには何か難しい事があるんじゃないか』と思っていた。もしここをクリアしたら、自分の可能性が広がるんじゃないかと思いました」

 何もやらせてもらえなかったW杯ブラジル大会。そこでの苦しい経験を経て、個の力がなによりも重要視されるプレミアで、自分なら何ができるのか。その答えを探すためにレスターにやってきた。そして今もなお、プレミアでの探求は続いている。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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