広島を十年ぶりのJ1制覇に導けるか? 2試合連続ゴール、新人FW中村草太が示す可能性

大島和人

中村草太はACL2に続き、J1開幕戦でも得点を挙げた 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 サンフレッチェ広島は2025年のJ1における「大本命」だ。昨季はヴィッセル神戸に次ぐ2位だったが、チームの完成度が高く、さらに今季は開幕前の補強が手厚い。まず昨季19得点のFWジャーメイン良をジュビロ磐田から迎え入れている。他にもレフティー菅大輝、ボランチの田中聡と主力級が加わった。中島洋太朗や井上愛簾のような若手も成長が期待できるだろう。

 特に明るい兆候は、明治大から加わったルーキー中村草太の存在感だ。彼は2月8日のFUJIFILM SUPER CUP2025で公式戦デビューを飾ると、12日(木)のAFCチャンピオンズリーグ2・ナムディン戦、16日(日)の開幕・FC町田ゼルビア戦と連続ゴールを決めている。チームの「スーパーサブ」として後半途中から起用されていて、J1デビュー戦となった町田戦は77分に決勝ゴールを挙げた。

「逆転勝利」から見える広島の変化

 広島は昨季の3位・町田とのアウェイ戦を2-1で制した。ただしベトナム遠征から中3日という強行日程の中で、前半は動きが重く見えた。実際に先制を許し、後半にようやく盛り返す苦しい展開だった。

 昨年9月の対戦で町田から2アシストを決めた右ワイドの中野就斗を消され、「幅」を封じられて攻撃が単調になっていた。しかし後半開始とともに左ワイドに菅を起用し、1-1の72分から左シャドーに投入された中村がさらに攻勢を加速させた。

 今季の広島は新加入選手が選択肢を増やし、後半に展開を活性化させられている。ミヒャエル・スキッベ監督は言う。

「昨シーズンと違って、交代によって少し違う形のサッカーを展開できるようになりました。個人の特徴を生かした別のサッカーが展開できる強みが生まれました。後半に追い風を吹かせるようになったことは、この冬の補強がうまくいった部分だと思います」

 中村のようなスペースを走り回れるタイプが、後半からピッチに入ると効果的だ。菅は2人の連携こう説明していた。

「自分がサポートをしながら、好きなようにやらせるのがベストだと思います。『スペースに出して』というようなことを、試合に入ってきたときは必ず言ってくるので、(中村が一人でスペースから仕掛けられるように)あまり近づかないようにしています」

 昨季の広島はリーグ戦で19勝を挙げているが、ビハインドをひっくり返した展開が一度もなかった。それが今季は開幕戦から逆転勝利を実現している。

 センターバック(CB)の荒木隼人は言う。

「途中から出てくる選手が結果を出すことで、本当にチームの勢いが出ます。なかなかなかった逆転勝利を今シーズンの一発目に出せたのは、チームがより良い方向に向かっている証拠かなと思います」

新戦力が起こした後半の反攻

ジャーメイン良(右)は1トップで起用されている 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 町田はCB岡村大八、菊池流帆が相次いで負傷し、3バックの構成が試合中に2度変わった。53分以降は右からイブラヒム・ドレシェヴィッチ、昌子源、中山雄太という並びになり、強さ系からつなぐ系への変化が起こった。

 これにより持ち味を発揮し始めたのがジャーメインだ。

 77分の決勝点は彼のプレスから生まれた。相手CBの「つなぎ」にミスが生まれ、ボール奪取と横パスからジャーメインがミドルを放つ。中村がGKの弾いたこぼれ球に素早く動き出し、ゴール左からフリーで叩き込んだ。

 スキッベ監督はジャーメインの働きをこう評価する。

「今までいたドグ(ドウグラス・ヴィエイラ)、ピエロス(・ソティリウ)に比べてさらにダイナミックなプレーができるところに期待しています。前からのプレスも、今までの選手よりできます」

 荒木はこう振り返る。

「ドレシェヴィッチ選手が入ってきて、(町田が)ボールをちょっと保持し始めたところに対して、ジャーメイン選手がしっかりプレスをかけてくれて助かりました。僕らも守備に行きやすかった」

 ジャーメインが前から「圧」をかけ、なおかつボールを収める回数が増えたことで、広島はチーム全体がより前に出ていける状態になっていた。シュートは前半の3本から7本、コーナーキックは2本から5本に増えている。そんな攻勢が2得点に結びついた。

 中村の決勝ゴールもジャーメインのプレスと、仕掛けから生まれたものだった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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