今治と八戸、注目の対戦は痛み分けに 試合後の監督会見で感じた“違和感”

宇都宮徹壱

三田のゴールで同点に追いついたものの……

先制された今治は、後半27分に同点に追いつく。決めた三田は有間(19)とハイタッチ 【宇都宮徹壱】

 この日の八戸の布陣は3−4−2−1。相手ボールの時間帯は、両ワイドが下りてきて5バックで守る形だが、八戸のサポーターに確認したところ「いつものウチの戦い方ですよ」とのこと。もうひとつ特徴的だったのが、相手ボールへの寄せが素早く、ボール奪取の位置が高めに設定されていること。そのため風下に立たされているにもかかわらず、前半30分まではアウェーの八戸がペースを握り、その間はずっと今治陣内でゲームは進行した。前半25分には、自陣ペナルティーエリア左からFKのチャンスを与え、あわや失点というピンチを招くも、ここはファウルの判定で事なきを得た。

 もちろん今治も反撃しなかったわけではない。27分には桑島良汰が、35分には有間潤が、それぞれシュートを放っている。だが、パスで崩してチャンスを作ってからではなく、いずれも散発的なシュートであった(結局、前半の今治のシュートはこの2本のみ)。それでも35分を過ぎたあたりから、徐々にパスがつながるようになったのだが、前半43分には反撃ムードに水を刺すような失点。西埜植が自陣ペナルティーエリア内でファウルを犯してしまい、PKを得た八戸は中村太一がきっちり決めて八戸が先制する。前半はこのまま八戸の1点リードで終了。

 ハーフタイム、今治は最初のカードを切る。左SBを西埜植から中野に交代。併せて吉武監督は、相手の背後を意識して狙うことを指示する。後半、裏に飛び込む姿勢を積極的に見せていたのが、右のワイドで起用されていた三田尚希だった。当人いわく「相手のセンターバック(21番の須藤貴郁)が前に出てきて、ワイドの4番(前田柊)が自分に付いてくるのが分かっていたので、そこの間を突こうとハーフタイムで話していました」。後半13分には、いったん前に飛び出した三田が後方の玉城峻吾に戻し、アンカーの山田貴文を経由して左から中野がクロスを入れたところに、三田が頭から飛び込んで惜しいシュートを放つ。この試合、今治にとって最も見どころのあるシーンだった。

 その直後、今治ベンチは2枚目のカードとして、インサイドハーフの金子雄祐に代えて長尾善公を投入。前線の動きはさらに活性化する。そして迎えた後半28分、右サイドに展開していた有間がシュート。いったんは相手GKがはじくも、三田がしっかりと詰めていた。右足からのシュートはボテボテだったものの、かえってGKの意表を突くコースを描いてゴールに吸い込まれていく。同点に追いついた今治は攻勢を強めるべく、後半42分には有間を下げて佐保昂兵衛をピッチに送り込む。だが、相手のカウンターを警戒しながらの風下からの攻撃は、やや迫力に欠けた。結局、スコアが動くことはなく、試合は1−1で終了。昇格のライバル同士は、勝ち点1を分け合うこととなった。

対照的だった試合後の監督会見

1−1のドローに終わり、首位との差を詰められなかった今治。厳しい戦いは今後も続く 【宇都宮徹壱】

 試合後、八戸の葛野監督と今治の三田が、何事か言葉を交わしている姿が視界に入る。両者は15年と16年、青森で指揮官と選手の間柄であった。「自分を拾ってくれた葛野さんには、成長した姿を見せたいという思いはありました」と三田。青森山田高では柴崎岳とともにプレーし、09年の高校選手権では優秀選手に選出されたものの、法政大卒業後はプロからのオファーがなかった。当時、東北1部だった青森への加入を葛野監督が勧めたことで、その後の三田のキャリアは好転。昨年には今治に移籍し、Jリーグでのプレーまであと一歩のところまで迫っている。この日の同点ゴールは、恩人に対しての強烈な「恩返し」だったと言えなくもないだろう。

 ところで両監督の会見は、実に対照的なものとなった。「ドローでの勝ち点1はアウェーならば最低限の結果だが、今日のゲーム展開なら勝ち切れないといけない」と語るのは葛野監督。これに対して吉武監督は「前半は思うようにいかず、0−3くらいになっていてもおかしくなかった。負け試合だったことを思えば、今日の勝ち点1は悪くなかった」。同じ勝ち点1でも、ホームとアウェーでは捉え方がまったく異なるのは、サッカーではよくある話。とはいえ、アウェーが勝つ気満々で、ホームが安堵(あんど)しているとなると、話は別だ。しかも、両者ともJ3昇格を目指して、しのぎを削る関係であればなおさらである。

 それにしても、前半の今治は風上に立ったにもかかわらず、なぜあれほど押し込まれたのだろうか。吉武監督の答えは「ウチのサッカーは読まれやすいので、相手はしっかり研究してくる。その相手の狙いを逆手にとれなかった」。今週のシュート練習の成果については「シュートを打てるようなチャンスがなかったので、効果があったとは言えない」。ここまでの5試合のうち4試合で先制されたことについては「われわれの目標は勝ち点3を取ること。先制されても、相手よりも1点多く取れるようにしたい」。言っていることは、いずれももっともなように感じるのだが、私にはいささかの違和感が残った。

 私が気になったのが、吉武監督の言葉から、いつもの力強さや自信といったものが希薄に感じられたことだ。こちらが多少、意地の悪い質問をしても「そんなことはないです」と確信に満ちた反論が返ってくるのが、これまでの今治の会見であった。ところがこの日は、いささか気弱に見えるばかりか、「ウチのサッカーは読まれやすいので」というネガティブなフレーズが出てきたのには、ちょっと驚いてしまった。そもそもそれは、私が地域リーグ時代からたびたび指摘してきたことである。そうした疑義に対して、これまで吉武監督は結果で論破してきた。この試合の結果を受けて、あるいは指揮官に迷いが生じているのだろうか。単なる杞憂であることを願わずにはいられない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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