2018年のテーマは「プロフェッショナル」 FC今治があえて日本一を目指す理由

宇都宮徹壱

派手→地味→派手ときたら、今年は地味?

10人の新加入選手とフォトセッションに臨む岡田オーナーと吉武監督 【宇都宮徹壱】

 底冷えのする1月29日、朝一番の飛行機で今年初めての今治取材に向かう。この日、現地ではFC今治2018方針発表会が行われることになっていた。早いもので、開幕前の方針発表会を取材するのは今年で4回目。そのすべてを取材している人間は、それほど多くはないはずだ。ひとつのクラブを定点観測する上で、それぞれの年の方針発表会を並べてみると、クラブのバイオリズムのようなものがうっすらと見えてくる。今治駅で下車して、会場の今治市民会館に向かう道すがら、過去3回の方針発表会を思い出してみた。

 2015年の2月にグリーンピア玉川で行われたときは「リスタートカンファレンス」と銘打ち、岡田武史オーナー就任によってFC今治がまったく新しいクラブに生まれ変わったことを強く印象づけるものとなった。「岡田メソッド」や「スポーツによる地方創生」など、バリューのある話題が目白押しで、中央からのメディアの数も最も多かったと記憶する。続く16年2月に行われた方針発表会は、JFL昇格を逃したこともあり、前年に比べて演出も極めて簡素で控えめなものとなった。

 もっとも、この時の会場は今治新都市スポーツパーク。そう、現在の夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)がある場所だ。当時はスタジアムはもちろんイオンモールもなかった。それでもメディア関係者を予定地に案内して、岡田オーナーが「ここに5000人収容のスタジアムができるんです!」と宣言したときは、JFL昇格失敗がちっぽけなことに思えるくらいワクワクしたものだ。続く17年は、みなと交流センター「はーばりー」で開催。JFL昇格の高揚感の中、夢スタの完成予想図が披露されるなど、これまで以上の高揚感を見せていた。

 派手→地味→派手ときたら、今年は地味になるのだろうか? そんな思いを抱きながら、定刻どおり14時からスタート。冒頭、昨シーズンの振り返り映像が流れる。華やかな夢スタのこけら落としと、スタンドで盛り上がる今治の人々。ふいに月が陰る映像がインサートされて、今治の失点シーンが続く。思えば昨シーズンは、残念な失点で勝ち切れない試合が少なくなかった。結果として、1年でのJ3昇格はならず。続いて朝日の映像が挟まれ、来季に向かってトレーニングに励む選手たちの姿が映し出される。そして暗転。舞台の袖から、岡田オーナーが登場した。

スタジアム集客率とJFLで「日本一を目指す」

今年のテーマを「プロフェッショナル」とした岡田オーナー。そのココロは? 【宇都宮徹壱】

「夢スタのオープニングの時は、どれだけお客さんが来てくれるかドキドキしていて、試合内容はほとんど覚えていません。幸い5200人以上のお客さまに来ていただき、涙が出るくらいうれしかったです。平均入場者数の条件はクリアしたけれど、残念ながら成績面では(JFL昇格の)条件を満たせませんでした。それでも多くの方から『また来年も来るから』と言っていただきました。18年は皆さんの想いに応える年であると考えます。そのためには、背水の陣で臨まないといけない」

 岡田オーナーのスピーチは、夢スタを無事にオープンさせた安堵(あんど)と地元ファンへの感謝をにじませながらも、全体的には使命感と危機感が色濃く出たものとなった。そして掲げた今季のスローガンは「PROFESSIONAL(プロフェッショナル)」。岡田オーナーいわく「成果、結果をコミットする。すべての面で結果を出す」としている。また、社員数が50名、予算も7億円となったことを踏まえて「今後はプロフェッショナルの人材を確保し、労務管理もしっかりしたものにしていく」とも。「プロフェッショナル」とは、まず結果へのコミットがあり、そのための人材の確保というダブル・ミーニングがあるようだ。

 続いて、矢野将文社長が登壇。今季のクラブ事業本部のビジョンとして掲げたのが「日本一のスタジアム集客率を目指す」である。昨シーズン、夢スタで開催された5試合の平均入場者数は3752人。キャパシティは5030人なので、昨年の夢スタでの集客率は約75%となる。これはJリーグの人気クラブと比較しても、十分に立派な数字だ。矢野社長のプレゼンによれば、2016年シーズン最も集客率が良かったのが、川崎フロンターレで81%。以下、ベガルタ仙台の79%、ジュビロ磐田の78%、そして松本山雅FCの68%と続く。集客に関するJ3昇格の条件は、平均2000人以上。しかし今季の今治は、さらに1000人上乗せの4000人以上とすることで、集客率日本一を目指すという。

 この「日本一」という目標は、高司裕也オプティマイゼーション事業本部長、そして吉武博文監督によるあいさつの中でも言及されている。JFLからJ3に昇格するためには、ファーストステージかセカンドステージでの優勝、もしくは年間順位4位以内である(いずれもJ3ライセンスを保持していることが前提)。しかし、現場サイドが今季目指すのは「ステージ優勝をしてチャンピオンシップに進出し、そこでも優勝して日本一になること」(高司本部長)。つまり、J3昇格というミッション達成は当然のこととして、さらにその上を目指すというわけである。

 その後、CRAZY WEST MOUNTAINの鶴岡良さんが、FC今治のテーマソング『栄光の航海』を歌い上げ、会場を訪れた200人近いサポーターも一緒になってタオルマフラーを振っていた。だが全体を通してみれば、今年の方針発表会はおしなべて地味で、いささか新味を欠いたものに感じられた。それは岡田オーナー自身が「今年は派手なものはない。しっかり足元を見つめる1年」と語っていたことからも明らかである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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