「恐ろしい髭」が好調ロケッツをけん引 初のMVPを目指すジェームズ・ハーデン

佐々木クリス

「ステップバック」を武器に点を量産

立派な髭がトレードマークのジェームズ・ハーデン。得点王を獲得するペースでゴールを量産している 【Getty Images】

 Fear the beard −髭(ひげ)を恐れろ−

 ドライブとみせて急激にステップの方向を斜め後ろに切り返す。この「ステップバック」と呼ばれるフットワークをみせると同時に、マークマンが床に崩れ落ちる。3ポイントラインまで下がった男が床に倒れた相手を静かに眺めながら、手に収まったボールの革の感触を確かめる。時が止まったようにも見えて、男はシュートを放つ前に舌なめずりすらしているようだった。

 これは実際に今シーズンのNBAの試合中に起きた一場面である。

 分厚い髭をたくわえたその男の名前はジェームズ・ハーデン。1対1の場面であまりにも強大な力の差を見せつけられたディフェンダーは、立ち上がって笑みを浮かべることしかできなかった。シュートが決まり振り返ったハーデンは「どうだ!」と言わんばかりに、背番号が書かれた自らのユニホームを左右に引っ張ってアピールする。

 髭の隙間から白い歯があらわになった。

 ヒューストン・ロケッツに在籍するハーデンが、1試合あたりに稼ぐ平均得点は31点。自身初となる得点王を獲得するペースでゴールを量産しているが、得点を取ることはもはや朝飯前。昨シーズンには史上初めてシーズン通算2000得点、900アシスト、600リバウンドを同時に記録し、アシスト王にも輝いた。アシストした得点の合計も2000点を超えたことも史上初の偉業だった。ただのスコアラーではない、正真正銘ロケッツが誇るエース・ポイントガード。そんな彼がキャリア初のMVP獲得にまい進している。

移籍を機にシックスマンからエースへ

 2009年ドラフト全体3位で指名を受け、4シーズン目にしてオールスター選出。そんなキャリアの分岐点はその4シーズン目の開幕直前に電撃移籍したことだ。それまではシーズンMVP受賞歴のあるケビン・デュラント(現ゴールデンステイト・ウォリアーズ)、ラッセル・ウェストブルックらとともにオクラホマシティ・サンダーに在籍。12年6月にはNBAファイナルに進出するも、レブロン・ジェームズ擁するマイアミ・ヒートに敗れたばかりだった。

 ただ、サンダーに在籍した3年間はベンチスタートのシックスマン。11−12シーズンには最優秀シックスマン賞を受賞したが、エースではなかった。ハーデンはサンダーでの安定を顧みずチームを飛び出したばかりか、開幕戦ティップオフ1時間前に5年、8000万ドル(約83億8000万円)の契約を締結した。

 ロケッツとしても大きな賭けのはずだった。ハーデンをルーキーの時から目を付けていたダレル・モーリー球団GMは、開幕戦でデトロイト・ピストンズ相手に37点を取ってみせたハーデンのパフォーマンスに、ここでは書けないような言葉遣いで「だから彼を連れてきたんだ! それ見たことか!」と声を大きくしたと振り返る。

 すでにオクラホマでもモジャモジャの髭と愛くるしい瞳で人気を博していたハーデン。この年には自身初のトリプルダブル(1試合中に得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックショットの中で3つ2桁以上の記録を同時に残す偉業)も記録し、人気は「旋風」へと変わっていく。

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