「恐ろしい髭」が好調ロケッツをけん引 初のMVPを目指すジェームズ・ハーデン

佐々木クリス

スローガンは「髭を恐れろ」

元チームメートには、蝶のように舞い、蜂のように刺すドリブルから「ボクサー」とも形容されていた 【Getty Images】

 ハーデンはディフェンスを「釣る」名手で、催眠術師でもある。利き手の左から股の間にボールを潜らせて右手に持ち替え、さらに身体の前で右から左に持ち替える。ディフェンスを眠りへと誘うと次の瞬間には視界から消えている……。元チームメートには、蝶のように舞い、蜂のように刺すドリブルから「ボクサー」とも形容されていた。対戦相手を料理した後に見せる“鍋の具を混ぜる”パフォーマンスをしていたことから、「超一流シェフ」とも表現された。

 その中でも最もファンが支持するのは、「Fear the beard −髭を恐れろ−」のスローガンだ。もはやホームコートのあるヒューストンでは、この言葉がつづられたプラカードを見ない日がないほどだ。

 ハーデンの洗練されたプレーには、日々切磋琢磨(せっさたくま)するNBA選手たちも賛辞を惜しまない。サンアントニオ・スパーズのマヌ・ジノビリを研究し身につけた4種類のユーロステップに、MVP級の選手にも「ほしい!」と言わしめる“死神”の名を冠した冒頭のステップバック、3ポイントラインのはるか後方から放つ長距離砲に、相手センター越しにたたき込むドライブイン・ダンク。

 特に、バスケットボールで最も効率の良い得点方法であるフリースロー(FT)を獲得する技術は天下一品。12年のロケッツ移籍後6シーズンで、FTを2番目に多く獲得している選手より、実に1181本も多い。

 ただ、もちろん彼のプレースタイルははじめから完成されたものだったわけではない。少年時代はコートの隅に立って、ボールがくれば打つ「待ち打ちシューター」だったと本人が明かしている。そんな中で、並々ならぬセンスに気付いた高校のコーチが、とにかくドライブで決める練習と「1試合で6本以上FTを獲得できればハンバーガーをごちそうしよう。達成できなければダッシュだ」と背中を押したことで多くのプレーを吸収したという。

 当時のコーチは振り返って「素晴らしいアスリートは空中での所作を身に付ける。ジェームズは接地した状態での所作を覚えていった。ジャンプストップ、ポンプフェイク、空間と時間を捉える能力」と彼の成長を思い起こす。若手発掘が業務のスカウトも、当時のプレースタイルを「30歳のようだった」と語る。

 サンダー時代には、ドライブの際にボールをディフェンダーに取られないよう、アゴの下でコントロールすることを教えられたハーデン。ただしその手法は試したものの「自分には合わなかった」そうで、「逆に腕を伸ばしてみることにしたんだ、すると守備側はどんどん手を出してきて、自分の腕をたたいた。お宝を見つけたようだったね。黄金を。みんな僕が自らぶつかりにきていると思っているが、釣り針にエサを付けた状態なのさ。手を出す選択肢はあるよ、でも当たればファウルだから」。今なお、数え切れないほどの巧妙かつ効果的な技術を、ハーデンは進化を続けながら身に付けている。

自慢の髭には誰も触れない

 今季はチームもNBA最高勝率を誇っている。モーリーGMはハーデン獲得には確信があったと強調するも、「ここまでと分かっていれば、あと5つはドラフト1巡目指名権を差し出したよ」と気分は上々だ。今季開幕前にはハーデンの相棒としてロサンゼルス・クリッパーズからクリス・ポールまで獲得してみせたのだから、彼の上機嫌は無理もない。

 泣く子も黙るオフェンスマシーン、実は結構な不思議ちゃん。友人にしか通じないスラングを多用し、自慢の髭には誰であっても一切触れてはいけないそうだ。アフロとモヒカンを合体させたようなソフトモヒカンもおしゃれだが、その頭髪を整える理髪師すら髭には触れられないという。あまりにも立派な髭で怪しがられることもしばしばあるそうだが、「正直髭のない自分を見るのは恐ろしい」そうで、「ただ、見た目じゃない本当の自分を知ってくれれば惚れるぜ」と自らフォロー。

 見たら2度と忘れることはない容姿に、あふれんばかりの才能。髭をトレードマークにしたマーケティング戦略もバッチリ。人気のオールスター選手たちの仲間入りをして間もなく大型のシューズ契約と、トラックいっぱいに積み込まれた自らの名を刻んだスニーカーも手に入れた。

 その男、髭につき注意。主な犯行手口はステップバック。ディフェンダーの心を折ってはニンマリ。大舞台で目指すステップアップ、残す栄光はMVPにチャンピオンシップ(優勝)だ。

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