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柳田将洋、ドイツで過ごす刺激的な日常
遠回りでも目指す未来へつながると信じて

ここに来なければ分からなかった

ドイツでプレーする柳田将洋が現状を語った
ドイツでプレーする柳田将洋が現状を語った【写真:平野敬久】

 ソーセージが焼かれ、ビールの売店が並ぶ入り口。少し大きめの中学校の体育館といった様相の、決して広いとは言えない場所。現地時間1月28日、ドイツ・ブンデスリーガのバレーボール・バイソン・ビュールとネッツホッパーズ戦が行われるアウェーの体育館に柳田将洋はいた。


 ホームのビュールから、ネッツホッパーズのホームであるベステンゼーまではバスで約8時間の道のり。


「めちゃくちゃ遠いですよね。こういう選択(移籍)をしなかったら、たぶん、一生来なかった場所だと思います」


 自ら望んだ環境の変化、多少の不便や苦労は覚悟してきたが、時には想像を上回ることもある。プレーオフ進出に向けても「しっかり勝ち切りたい」と話していたネッツホッパーズ戦を3−0のストレート勝ちで終えた直後、右手に持ったタオルで汗を拭いながら、左手で腹部をさする。


「試合中にバナナを食べたらお腹が痛くなっちゃって(笑)。日本にいた時は、補食のタイミングも内容も恵まれていたなあ、とあらためて感じます」


 思い通りにいくことばかりではない。でもそれは、試練でも挑戦でもなく、今の日常であり、これが自分の選んだ道。


 いいこともそうではないことも、ここに来なければ分からなかった。そう語る柳田の表情は清々しく、どこか楽しそうだった。

日本バレーボール界が強くなるために

柳田には自らのレベルアップだけではなく、海外でのプレーを当たり前にしたいという思いがある
柳田には自らのレベルアップだけではなく、海外でのプレーを当たり前にしたいという思いがある【写真:アフロ】

 バレーボールで生活したい。もっと今以上にバレーボールに集中したい。


 2015年のワールドカップを終え、直後に開幕したV・プレミアリーグを戦い終えた頃、柳田は「プロになりたい」と考えるようになった。またすぐにナショナルチームでの活動が始まり、16年5月の五輪最終予選で敗退。海外との圧倒的な差を見せつけられたことが1つの契機となった。「海外でプレーしたい」と望むようになったのも、ごく自然な流れだった。


 海外選手のブロックに対するオフェンスや、打点の異なるサーブに対するレセプション(サーブレシーブ)。身に付けたい技術は山のようにあったが、望んだのは自らのレベルアップだけではない。日本バレーボール界が強くなるための手段として、「海外でプレーすることがもっと普通にできるようにしたい」という思いが根底にあったと振り返る。


「日本にも海外にも、それぞれの良さがありますよね。でも『海外でプレーする』というと、やっぱりどこか特別な感じになってしまう。そうではなくて、もっと海外に出ることを当たり前にしたいと思いました。だったら、(移籍するなら)今しかないと。むしろ焦りというか、限られた時間に背中を押される感じでした」

「予想外」だったキャプテン就任

チームではキャプテンを務め、エースとしても信頼は厚い
チームではキャプテンを務め、エースとしても信頼は厚い【写真:アフロ】

 17年6月にビュールとの契約締結を発表し、ワールドグランドチャンピオンズカップを終えて間もなく渡欧。10月15日の開幕戦にも出場し、2戦目からはキャプテンに任命された。自身は「全くの予想外だった」と笑うが、ルーベン・ウォロズィン監督は「サーブ、スパイク、彼の優れたところはたくさんあるが、一番素晴らしいのは人間性。私たちのチームはもちろん、きっと日本代表でも、マサはキャプテンになれるリーダーシップを持った選手だ」と高く評価しており、加入したばかりの柳田がキャプテンに就任したのは特別なことではないと言う。


 2メートルを越える選手が何人もいるチームの中で、186センチの柳田は確かに小柄だが、攻撃力の高さはチーム随一。すでにチーム内ではエースとして信頼も厚く、冒頭のネッツホッパーズ戦では30点を超える攻防を繰り広げた第1セットの勝負どころでトスを託され、最後も自らのサーブで試合を決する活躍を見せた。


 結果がすべて、と断言するプロの世界の中で着実に成果を残している。それは柳田にとっても自信になっているのは間違いない。


「正直、来る前はこれだけコートに立ち続けられるとは思っていなかったんです。でもこうして試合に出られて、数字も出せている。今の時点では思ったよりスムーズにいい形で来ていると思うし、多少レセプションが崩れても、そこで代えられずにコートへ立たせてくれる。なので、『自分が何とかしなければ』と思うし、それも望んできたこと。あとはシーズンを通してコンディションを保ち続けること、次につなげる結果、数字を残して日本に帰ることができるかというのが大事になってくると思いますね」

田中夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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