全日本男子の新たな挑戦と、高まる期待 速さと高さが共存するバレーを目指して

田中夕子

タイプの異なる相手に3連勝

ワールドリーグ高崎大会で3連勝を飾った日本。スロベニア戦では藤井(右)のトスから柳田がバックアタックを決めた 【坂本清】

 6月10日に行われたワールドリーグ高崎大会2戦目、対スロベニア。

 セットカウント2−2で迎えた最終セット。山田脩造がアタックラインよりやや後ろに上げたパスを、セッターの藤井直伸はミドルブロッカーに上げ、李博のBクイックで日本が1点を先制。続けてスロベニアも取り返して1−1とすると、次は李に上げると見せかけて、藤井はバックセンターの柳田将洋を使う。

 スロベニアのブロックは2枚、ミドルブロッカーの李のBクイックに絞って跳んでいたため、結果的にノーマークになった柳田のバックアタックが豪快な音とともに決まり、2−1。このセットを17−15で制した日本が3−2で勝利した。淡々と、だが時折笑顔を交え、司令塔の藤井が振り返った。

「『やったー、ハマった』って。あれだけ速いクイックを見せていれば、外国人の選手でもリード(ブロック)だけでは対応し切れない部分もある。Aパスの時はミドルにコミット(ブロック)でくることが多いので、そこでサイドに対してブロックが1枚になるようなシチュエーションをつくっていけたら楽かなと思います。逆にBパスやCパス、乱れれば相手はリードでくるからミドルが生きる。(高いブロックに対して)ミドルを使うのは怖いですけれど、使えばいろいろな攻撃が生きるので、勇気を持って使い続けました」

 まさに狙い通り。男子バレーボール日本代表にとって今季の国内初戦となったワールドリーグ高崎ラウンドはトルコ、スロベニア、韓国とタイプの異なる相手に3連勝。結果もさることながら、過程も含め、今後に向けて期待が高まる好スタートを切った。

オーバーハンドでのレセプションを求めるブランコーチ

攻撃の枚数をを確保するため、ブランコーチ(左)はオーバーハンドでのレセプションを指示 【坂本清】

 前週のワールドリーグスロバキア大会で監督代行として指揮を執ったフィリップ・ブランコーチは、まずチームに1つの課題を掲げた。

 常に攻撃参加の意識を高く持ち、サイドアウト(相手チームのサーブ)時も、ラリー中も最低3枚、できれば後衛も含めた4枚が同時に攻撃に入ること。そのために、柳田や山田、浅野博亮などウイングスパイカーの選手に対しては「できるだけ体勢を崩さず、次の準備に入れるように」とオーバーハンドでのレセプション(サーブレシーブ)を指示し、選手はその策を遂行した。

 柳田は言う。
「ブランさんからはとにかく『オーバーで取れ』とめちゃくちゃ言われます。もともと僕はオーバーのほうが得意なので、自分としてもフィットしている感じがあるし、(初戦で対戦した)トルコのようにフローター(サーブ)が多いチームに対しては、オーバーが一番いい。シンプルなことだけど、指摘され続けて、チャレンジしてきた成果は出ていると思います」

 バックアタックさながらのジャンプサーブや、変化だけでなくスピードもあるジャンプフローターサーブなど、世界のサーブの進化は止まることがない。当然ながら、レセプションを担い、攻撃にも入るウイングスパイカーの負担も増すばかり。だがそこでジャンプフローターに対してはオーバーハンドでレシーブする、といったように1つ指針があれば、たとえ多少乱れることがあっても「精神的にも楽でいられる」と柳田は言う。

ミドルの積極活用で数的優位を生み出す

ミドルからの攻撃展開を得意とする藤井(中央)の存在もあり、日本は攻撃時に数的優位の状況を生みだすことができていた 【坂本清】

 加えて、ミドルからの攻撃展開を得意とし、「パスがアタックラインぐらいに上がればミドルは使える」という藤井の存在も大きい。同じ所属チームの李には多少離れた場所からでもスピードを重視したトスを上げ、出耒田敬、山内晶大にはネットから離してふわりとしたトスを上げて高さを生かす。

 サイドアウト時も「Aパスが返らなければミドルは使えない」という概念などそもそも持たず、Bパスでも積極的に上げ、ラリー中もミドルを使う。特に李とのコンビは高崎ラウンドの3連戦で冴えわたり、李も「BパスどころかCパスでも藤井は(ミドルに)上げてくるので、いつでも打てる準備をしていた」という。

 サイドからの攻撃一辺倒、オポジット一辺倒ではなく、ミドルの打数が増えれば当然相手のブロッカーもミドルに対する警戒を強める。そこにバックアタックも加われば相手のブロックに対し、日本が攻撃時に数的優位の状況を生みだすことができる。

 誰かに頼るのではなく、全員で攻める。攻撃参加の意識を高める、というブランコーチが提示する戦略の成果を、前週のスロバキア大会で活躍した浅野はこう言う。

「僕の役割は守備面の比重が高い。でも、たとえ(ローテーションの)後ろ3枚を回すだけの役割だったとしても、そこで自分もバックアタックに入れば、相手を少しでも惑わすことができます。ほんの数秒、0コンマ何秒の違いかもしれないですけれど、それだけでも相手のミドルが『バックアタックもある』と思えばサイドへの移動も少し遅れる。それが大切だと思うんです」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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