柳田将洋、ドイツで過ごす刺激的な日常 遠回りでも目指す未来へつながると信じて

田中夕子

「日本にいた頃よりもいろいろと考えるようになった」

ドイツでの日常はいいことばかりではない。いろいろと考えることが増えた 【写真:アフロ】

 とはいえ、すべてがいいことばかりではない。試合時の補食や日々の食事に加え、練習内容やトレーニングメニューも日本と比べれば負荷が軽く、なぜ今このメニューに取り組まなければならないのかと思うことがある。そんな疑問をぶつけようにも、ストレングストレーナーが英語を話せないため、意思疎通も十分にはできない。

 体育館もさまざまなカテゴリーのバレーボールクラブやフットサル、バスケットボールなど他競技と共用するため、試合が行われるシーズン中でも練習が20時に始まり、22時に終わるのも普通のこと。練習前には自炊した料理を食べ、練習後にはヨーグルトやフルーツで補い、体のケアをして0時過ぎに寝る。今はそんな生活も普通にこなせるようになったが、時折、不安になることもある。

「空いた時間をどう使うかというのはすごく考えるようになったし、こっちでは治療とかケアの面は自分でやっていかないと、けがにつながることもある。この練習で大丈夫かな、うまくなれるのかなと思うこともあるし、もしかしたら一気にコンディションが崩れてしまうんじゃないかという不安を感じることもあります。でも、だからこそどんな状況、環境でも、自分がどれだけやれるかが大事だし、それは間違いなく、日本にいた頃よりもいろいろと考えるようになったし、意識して行動するようになりました」

 練習前、ウォーミングアップの一環としてサッカーを楽しむ選手たちとは離れ、隣のコートで黙々と自重負荷でのトレーニングに取り組む。サッカーで動いて心拍数を上げる目的があるのは分かっているが、接触プレーによるけがの可能性がある以上、少しでもリスクは避けたい。

 レセプションの練習時も、日本のようにコーチがサーブを打ってくれるのではなく、選手同士でフローターサーブを打ち、ジャンプサーブはマシンを使う。試合につながる“生きた球”が受けられているかというと決してそうではないが、今はその練習を重ねて試合に臨むしかない。

今できることを探し、力を注ぐ

柳田はドイツで今できることを探し、力を注ぐ。さらなる高みを目指して 【写真:アフロ】

 腐ってしまえば、それで終わり。できないことや、足りないものに目を向けるのではなく、今できることを探し、力を注ぐ。一歩ずつ、時には遠回りに感じられることがあったとしても、目指す未来へつながっているはずだから。

「たぶんこの環境を見たら、『日本の方がよかったのに』と思う人がいるかもしれません。でも僕が今いるのは、日本ではなくてここだから。違うステージで成長していかなければいけないと思うし、ベストではないかもしれないけれど、これも自分で選択した道なので楽しいですよ」

 もちろん、現状で満足する気もない。

「毎年成長するために、まずはここで数字を残して、もう一段階高いレベルにトライしたい。やっぱり僕は、ずっと代表に選ばれ続けたいし、代表を強くしたいですから」

 今を受け止め、先を見据える。

 すべてが、これからにつながっていくと信じて。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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