石川祐希をレベルアップさせた武者修行 技術とメンタル、両面で増した安定感

柄谷雅紀

結果を求めて挑んだ2回目のイタリア挑戦

2度目のイタリア挑戦に向け「勝負して、結果を求めて、強くなるつもりでやっていきたい」と決意を語った石川 【坂本清】

 4月下旬、東京都内で行われたイベントで、「夢」を問われたバレーボール日本男子代表の石川祐希(中央大)は、はっきりとした口調でこう言った。

「世界のトッププレーヤーになりたい」

 この言葉が、昨年12月から約4カ月間にわたってプレーしたイタリア1部リーグ・セリエAでの充実ぶりを物語っている。全てが順風満帆だったわけではない。しかし、世界最高峰と言われるリーグでもまれ、試合に出場してしのぎを削った経験は何物にも代え難いものになっただろう。

 イタリアでプレーするのは大学1年の2014−15シーズンに続いて2回目。当時と大きく変わったのは、石川を取り巻く環境だ。15年のワールドカップ(W杯)で大活躍し、20年ぶりに5勝を挙げて6位に入る原動力となったことで注目度が急上昇。エースとして臨んだリオデジャネイロ五輪最終予選(OQT)では2勝5敗と7位に終わり、2大会連続で五輪出場を逃した。誰もが認める日本のエースに成長したことで、イタリアでのプレーに対する意識も違っていた。

「前回は初めてと言うことで経験しに行く、力試しをするという目標を持っていたけれど、今回はW杯やOQTなど世界を相手にたくさんの経験をしてきました。勝負して、結果を求めて、強くなるつもりでやっていきたいです」

けがもあり、試合に出られない日々が続く

イタリアに渡ってからデビュー戦までにかかった時間は1カ月。けがもあり、思うように練習ができなかった 【坂本清】

 2季前はセリエA屈指の強豪、モデナでのプレーだったこともあり出場機会は限定的だったが、今回は違う。出場機会も考慮し、中堅クラブのラティーナを選んだ。「絶対スタメンを獲得しようと思う」と意気込んだ。

 だが、出だしでつまずいた。

 日本を出発したのは12月7日未明。ここから初めて試合に出場するまで1カ月以上を要した。腹筋を痛め、思うように練習ができなかったからだ。1月15日にピンチサーバーとして初出場を果たすと、翌週にはリベロとしてスタメン出場。その後もスパイカーやリベロとして徐々に出場機会を増やした。下位チームによるプレーオフではスタメンを勝ち取った試合もあり、チーム内での自分の立場を確立することに成功した。

「最初の方はけがもあったので、アピールする場面が少なく、なかなか試合に出られませんでした。でも、監督は練習で良い選手を使うので、アピールするチャンスはすごくある。そこでアピールできていると思います。常に自分を良くしなければいけないので、メンタルの強化にもなります」

 中央大や日本代表では、石川のポジションはほぼ不動だ。しかし、イタリアではそうはいかない。「不安定になったらすぐに替えられてしまう」というプレッシャーを感じながら練習することで、「技術を安定させる」ことも意識するようになったという。

ポジションを勝ち取り、スパイクで好結果を残す

イタリアでは高いブロックに対する打ち方や技術を学び、好結果を残した 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 こうして徐々に信頼を得てポジションを勝ち取った。スパイカーとして出場した試合では、大型の選手がずらりと並ぶ相手に対し、スパイクでブロックアウトを狙ったり、きれいに間を打ったりして得点を決めた。強烈なサーブでサービスエースを奪ったかと思えば、緩く打ったサーブで連続のサービスエースを決めた。イタリアに渡る前よりもプレーの精度は上がり、幅も広がっていた。

 普段、主戦場としている大学では、石川のスパイクは高確率で決まる。ブロックに止められることもあまりない。石川からすると、プレッシャーが物足りないのだろう。「日本ではテクニックをちゃんと使える場がなかなかない」とも言う。だが、セリエAでは高いブロックが立ちはだかり、ディグ(スパイクレシーブ)されることもある。

 ラティーナに合流したのがシーズン中だったこともあり、練習から6対6の実戦形式でやることが多かった。スパイク練習でもブロックが付いていることがほとんどで、その中で着実に高いブロックに対する打ち方や技術を学んできた。「常にブロックは高いし、自分のパフォーマンスをいかに安定して出すかが大事。やっぱり日本にいたら、できないことなのかなと思います」

 スパイカーとして出場した9試合では149本のスパイクを打ち、75本を決めて決定率50.3%と好結果を残した。

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著者プロフィール

大阪府出身。中学からバレーボールに打ち込み、大学は筑波大でプレー。全国紙で5年半の事件記者を経た後、スポーツ専門の記者に。現在はバレーボールを中心に取材活動中。プロ野球やJリーグの取材も経験した。

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