男、40歳。フルキチに迷いはない テイエムジンソクと挑む21年ぶりGI制覇

山本智行

デビュー23年、フォローの風が吹いている

古川吉洋がテイエムジンソクとともに21年ぶりのGI制覇へ挑む 【写真:高橋由二】

 フォローの風を感じずにはいられない。デビュー23年。「フルキチ」の愛称で親しまれている古川吉洋騎手(40=フリー)がいま、騎手人生の大きなハイライトを迎えようとしている。

昨年後半からのいい流れに乗り、今年早くも重賞2勝。1月21日のGII東海Sでは快速馬テイエムジンソクとのコンビで単勝1.3倍の断トツ人気に応えると、2月4日のGIIIきさらぎ賞をサトノフェイバーで制覇。自身初参戦となる春の牡馬クラシックへの夢をつないだ。

「年明け、好調な厩舎にうまく乗せてもらっているだけで、僕自身やってることは何も変わってないです」と充実した表情の古川。そして、いよいよ来る18日、今年JRA最初のGIとなるフェブラリーSではクロフネ産駒のテイエムジンソクでダート王の称号を取りに行く。

「そりゃ、これだけの馬で向かうGI、ドキドキはしますよ。でも、準備はできている。客観的に自分を見られるし、やるべきことは分かってます」

 気持ちの高ぶりはあっても妙な気負いはない。パートナーのテイエムジンソクとは昨年5月の東大路Sで初騎乗。気性の激しさから才能を持て甘し、準オープンでくすぶっていたが、よほどウマがあったのか、そこから7戦5勝、2着2回ととんとん拍子でステップアップした。

「最初に乗ったのは前の週の追い切り。僕に回ってきたのは、多分クセのある馬だったからでしょうね。乗った印象は心と体のバランスがとれてなく、前ばかりで走ろうとして後ろがついて来ない感じ。それが競馬に行くと違った。不思議なヤツだなと思いました。馬も良くなる時期だったんでしょうが、さすがにここまで強くなるとは思いませんでしたけどね」

「イメージはクロフネ。武蔵野Sのあのイメージです」

 昨年暮れのチャンピオンズCはGI初挑戦ながら1番人気に支持され、クビ差2着。逃げた古豪コパノリッキーを番手キープからとらえたところをゴールドドリームの鬼脚に屈する形となった。

「僕の中ではあっさり勝つか、完敗か。そんな感覚だったので、意外でした。そりゃ、悔しい気持ちもありましたが、初の左回りも問題なかったし、GIでもやれることが分かった。光が差したレースでした」

東京マイル戦のフェブラリーS、イメージしているのは伝説となった武蔵野Sのクロフネだ 【写真:高橋由二】

 再び迎えるGI舞台。距離が1ハロン短縮され、芝スタートのワンターンと条件は変わるが、パートナーへの信頼は揺るがない。

「この馬、スタートがいいからいい位置で競馬ができるし、早めに行っても辛抱できる。マイルになるのは問題ないし、芝からのスタートも気にならない。ポイントはワンターンかな。息の入れようがどうなるか。何とも言えませんが、イメージはクロフネ。分かるでしょ? 武蔵野Sのあのイメージです」

 武蔵野Sのクロフネと言えば、9馬身ぶっちぎった伝説の一戦。着差はともかく、あのときの父と同じ4角先頭のレースをイメージしているようで、相当自信があるように思えた。勝てば、デビュー2年目となる97年阪神3歳牝馬S(現阪神JF)のアインブライド以来実に21年ぶりのGI制覇。1984年のグレード制導入以降では最もGI勝利の間隔が長くなるが、本人に特別な意識はない。

「GI勝ちがひとつあるだけでもいいことじゃないですか。そんなことよりジンソクにタイトルを取ってもらいたいし、取らせてやりたい」

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著者プロフィール

やまもと・ちこう。1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシング、アマ野球などを担当。各界に幅広い人脈を持つ。東京、大阪、福岡でレース部長。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。B'zの稲葉とは中高の同級生。

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