キタサンブラック偉業支えた“仕上げ人” もう一人の立役者・黒岩と3年の舞台裏

山本智行

空前絶後の存在、その傍らにいた男

キタサンブラックの調教を担当した“仕上げ人”黒岩悠騎手、怪物とともに歩んだ3年の日々を語る 【写真:高橋由二】

「無事これ名馬」という。この格言、作家で馬主でもあった菊池寛がつくったとか、つくらなかったとか。そんなことより、キタサンブラックほど、この言葉を体現したサラブレッドもいないのではないか。何しろ、3歳1月のデビューから5歳暮れのラストランまでの全20戦。うち究極のせめぎあいとなるGIは14戦。これらすべてで予定を狂わせることなく出走した馬は空前絶後の稀有な存在だ。

 昨年のクリスマスイブに行われた第62回有馬記念は好枠をいかし、鋭発を決めるとシナリオでもあったかのように逃げ切り、できすぎとも言える大団円。これでJRA・GI最多タイの7勝目を挙げるとともに獲得賞金では歴代トップに立った。そのスタート直前「吐きそうになりながら」見守っていたのがキタサンブラックの”仕上げ人”黒岩悠騎手だった。

第一印象は「大きいな」

 出合いは14年11月、栗東トレーニングセンター。追い切りを手伝う清水久詞厩舎に複数いるなかの1頭にすぎなかった。

最初の印象は「大きいな」 【写真:高橋由二】

「大きいな、というのが第一印象。ただ、トモは緩いし、体に筋肉がついてきていなかった。普通キャンターでもモタモタしていたし、時間かかりそうやな、来年の夏ぐらいには良くなるかな、という感じでした」

 それが1月31日、東京競馬場での新馬戦を3番人気で差し切り勝ち。続く500万下は9番人気で楽勝してしまう。

「勝っちゃいましたね、っていう感じ。あのころは驚きの連続でした。スプリングSのころには良くはなりつつありましたが、まさか勝つとは。皐月賞3着で凄い馬かも、と思うようになりました」。ただ、春シーズン最後となる日本ダービーは最初で最後となる2ケタ着順の14着。「トモが流れ、疲れがたまった状態だった」と回顧する。

「あの馬が一番変わったのは菊花賞の前」

 迎えた秋初戦に選んだのがセントライト記念。実は舞台裏で陣営は焦っていたという。真剣に追っても坂路4F58秒台と時計が詰まってこない。「あのころは牛のようでした。菊花賞に向けて1回使おうということで使った感じ」。そんな状況だったこともあり、6番人気だったが、直線先頭で押し切ってしまった。「あの状態で勝つか」と黒岩も驚いた。

初のGI勝利となった菊花賞、キタサンブラックが大きく変わったのはこの時期だという 【スポーツナビ】

 このレースを境にキタサンブラックは大きく変化する。「あの馬が一番変わったのは菊花賞の前。叩き2走目というより、殻を破った感じ。劇的に変わった。体も引き締まり、気合も乗って行きっぷりが全然違う。普通キャンターでも持って行かれそうになりました」

 母の父サクラバクシンオーということで距離不安がささやかれた菊花賞は5番人気をあざ笑うかのような走りでGI初制覇。「ずっと乗って来て、バクシンオーなのって感じでした。感覚では絶対に中距離以上。性格、心肺機能、体型から見ても、そう感じてました」

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著者プロフィール

やまもと・ちこう。1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシング、アマ野球などを担当。各界に幅広い人脈を持つ。東京、大阪、福岡でレース部長。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。B'zの稲葉とは中高の同級生。

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