今季のJはタイの“ビッグ3”に注目 万能型FWと「悪魔の左足」を持つ男が加入

本多辰成

札幌の救世主となったチャナティップ

チャナティップの活躍により、タイ人選手に対するJクラブの関心が高まっている 【写真:アフロスポーツ】

 2017年シーズンはタイ出身の選手たちがJリーグを盛り上げた。初のタイ人Jリーガーとして鹿児島ユナイテッドFC入りしたFWシティチョーク・パソを皮切りに、7月にはタイリーグのバンコク・ユナイテッドとクラブ間提携を結ぶFC東京が同クラブからU−23タイ代表MFのジャキットを期限付き移籍で獲得。そして、同じく7月にはタイ代表の中心選手であるMFチャナティップ・ソングラシンが北海道コンサドーレ札幌に加入した。

 最も大きな期待を背負ってやってきたのがチャナティップで、Jリーグ最初のシーズンで見せたパフォーマンスは、その期待に応えるものだった。加入直後からスタメンに定着し、残留争いを演じていたチームに欠かせない選手として活躍。ゴールこそ挙げられなかったものの、その存在感は大きく、同じく後半戦から加入したジェイとともに札幌の救世主となった。

「提携国枠」の影響で、タイ人Jリーガーはさらに増加

 身長158センチの小さなタイ人選手の活躍はJクラブのタイ人選手に対する見方にも大きな影響を与えている。昨シーズンからJリーグは「アジア戦略」の推進を目的として「提携国枠」を設けており、Jリーグと提携を結ぶタイ出身の選手は日本人扱いで出場できるようになった。そのルールが適用された初年度にチャナティップがJ1でも十分に通用することを証明し、タイ人選手に対するJクラブの関心は一気に高まった。

 すでにサンフレッチェ広島がタイ代表のエースであるティーラシン・デーンダーの獲得を発表し、セレッソ大阪も提携を結ぶバンコク・グラスからU−23タイ代表MFのチャウワット・ヴィラチャードを1年間の期限付きで獲得。さらに、タイ代表の左サイドバック(SB)を務めるティーラトン・ブンマタンのヴィッセル神戸加入も確実な状況で、今季のJリーグでは、昨シーズンよりもさらに多くのタイ人選手がプレーすることになる。

東南アジア最高の万能型FWティーラシン

広島に加入するティーラシンは「東南アジアのナンバーワン選手」と評され続けてきた 【Getty Images】

 広島に加入するティーラシンと神戸入りが有力なティーラトンは、昨シーズンまで共にチャナティップの前所属クラブであるムアントン・ユナイテッドでプレーしていた。両選手ともにチャナティップと並ぶタイ代表の中心選手で、持てる能力を発揮すればJ1でも十分に戦力となる力を備えている。

 タイ代表の10番を背負うティーラシンは、「東南アジアのナンバーワン選手」と評され続けてきた29歳のFW。正確な足元のテクニックに加えて、181センチの長身とスピードも兼ね備えており、多彩な得点パターンを持つ。ポストプレーがうまく、周りを生かすこともできる万能型ストライカーだ。

 19歳でタイ代表デビューし、現在まで91試合で42得点。14年にはスペインのアルメリア(当時1部)に移籍し、リーガ・エスパニョーラ初のタイ人選手となった。タイリーグでも通算100ゴールを超え、同リーグのタイ人最多得点記録保持者でもある。名実ともにタイでは別格な存在であり、チャナティップが本格的に台頭するまでは、彼を「タイのベストプレーヤー」と評することに異論をはさむ者はいなかっただろう。

 ティーラシンの存在は、タイリーグでプレーするJリーグ経験者にも強いインパクトを与えてきた。タイでプレーする日本人選手のパイオニア的な存在の1人だった丸山良明(元横浜F・マリノスほか)は、当時20代前半だったティーラシンを「スピードのある前田遼一(FC東京)のよう」と表現した。さらに、昨季までチームメートだった青山直晃も「タイにこんな選手がいるのかと本当に驚いた。ほとんど完璧な選手」と賛辞を惜しまない。

 その実力がJ1レベルでも通用することは、昨季のACL(AFCチャンピオンズリーグ)でも証明された。グループステージでは日本で行われた鹿島アントラーズ戦で一時同点となるゴールを決め、決勝トーナメント1回戦の川崎フロンターレ戦では第1戦、第2戦と連続得点。試合後、タイのメディアから「チャナティップ以外で印象に残った選手は?」と尋ねられた川崎の鬼木達監督は即答でティーラシンの名前を挙げていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て、2011年に独立。2017年までの6年間はバンコクを拠点に取材活動を行っていた。その後、日本に拠点を移してライター・編集者として活動、現在もタイを中心とするアジアでの取材活動を続けている。タイサッカー専門のウェブマガジン「フットボールタイランド」を配信中。

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