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幾多の困難を乗り越え鎮西が2冠を達成
初戦敗退のピンチを救った2人のエース

個の力を備え下馬評も高かった今季の鎮西

春高で21大会ぶり3度目の優勝を飾り、インターハイとの2冠を達成した鎮西
春高で21大会ぶり3度目の優勝を飾り、インターハイとの2冠を達成した鎮西【坂本清】

 バレーボールはエース勝負。エースの打ち合いで勝ったほうが勝つ――。


 鮮やかな黄色のユニホームがイコール鎮西カラーであり続けたように、選手は変わっても畑野久雄監督が掲げ続ける方針は変わらない。


 今季のチームもまさにそう。1年時からレギュラーとしてコートに立ち、今季はキャプテンも務めるエースの鍬田憲伸と、中学時代に全国優勝を経験している1年生エースの水町泰杜。U−20やU−18日本代表候補にも名を連ねる2枚エースが中心となる鎮西(熊本)は、まさにその「エース勝負」を制する個の力を備えている。


 今季は全国大会のタイトルホルダーになるのではないか。昨年の春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)を終えてから間もなく、多くの関係者が「今季は鎮西」と口をそろえた。その言葉通りの強さを見せ、春高で21大会ぶり3度目の優勝を飾り、インターハイ(高校総体)との2冠を達成した。

 

 とはいえ、すべてが順風満帆であったわけではない。

「ピンチではなくチャンス」と捉えた熊本地震

3年生セッター赤星(写真)が初戦の前にじんましんを発症。急きょ選手交代を行うことになった
3年生セッター赤星(写真)が初戦の前にじんましんを発症。急きょ選手交代を行うことになった【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 2016年4月、熊本地方を襲った最大震度6強の地震で、練習場所である体育館は半壊し、一時は十分な練習どころか、十分な生活すらできない状況に見舞われた。だが、そんな時でも畑野監督は「九州各県の高校や大学が練習場所として体育館を提供してくれ、練習試合も多く組むことができた。平日は満足な練習ができなかったが、その分土日は例年以上に練習試合をする機会が増えたので、これはピンチではなくチャンスだと考えた」と言う。


 その言葉通り、逆境を力に変え昨夏のインターハイを制覇。国体(国民体育大会)は敗れ3冠はついえたが、昨年末の天皇杯でも近畿大に敗れながらもフルセットで互角の攻防を繰り広げ、春高が日に日に近づく中、春高制覇に向けた周囲の期待も高まっていた。


 しかし、春高でもまた、思わぬピンチに見舞われた。


 シード校の鎮西にとって初戦である5日の2回戦。埼玉栄(埼玉)との試合開始直前だった。公式練習を終え、スタメンの6人がコートに入る。異変は、そこで起きた。


 3年生セッター、赤星伸城が手足や顔にじんましんを発症。足元もふらつき、試合はおろか立っているのもやっとという状態に見舞われ、急きょ選手交代。赤星に代わって、コートには1年生の前田澪が送り出された。


 体調不良の予兆があったわけではなく、赤星は「練習の時から熱くなって、ちょっと頭が痛いな、着替えたいな、と思っていたら目の前が真っ白になった」と振り返る。後の診断ではアレルギー症状の1つとされ、大事には至らなかったのだが、試合が始まったコートの中は揺れに揺れていた。

チームの危機的状況を救った2人のエース

鎮西の初戦敗退のピンチを救ったのは水町(写真)の機転とエースの鍬田だった
鎮西の初戦敗退のピンチを救ったのは水町(写真)の機転とエースの鍬田だった【坂本清】

 普段からレギュラー組のAチームとリザーブ組のBチームの練習は別々で行うため、Bチームの前田のトスをAチームの鍬田やミドルブロッカーの山田航旗は打ったことすらない。誰しもが緊張する初戦で、コンビも合わせたことがない選手同士が一か八かで試合を進める。当然ながら簡単にうまくいくはずはなく、タイミングが合わずにミスが生じ、ミスをしないようにと安全策を取りすぎて単調になった攻撃をブロックされる。第1セット、6−11と埼玉栄に5点をリードされた時点で鎮西はすでに2度のタイムを使い切る。


 優勝候補がまさかの初戦敗退で姿を消すのか。そんな危機的状況を救ったのが2人のエースだった。


 まず動いたのは水町だ。180センチと上背があるわけではないが、相手のディフェンスを見ながら攻撃展開する先を読む力に長け、状況に応じて助走コースを変えるなど、攻撃力と判断力に加え、コート内の存在感は抜群。めったに名指しで選手を褒めることがない畑野監督も「天才」と称するのが水町だ。初めての春高で、いきなり迎えた大ピンチ。ここでも水町の機転が光った。


 おそらくフライングをしても届かない、そんなボールをあえて追う。目的は1つ。相手に傾きかけている流れを止めるべく、床を拭くことで少し間を作りたかったからだ。赤星が退場した瞬間は「こんなことは自分のバレー人生で初めてだったから、うそだろ。マジか、と思った」と笑うが、焦りながらも頭の中は冷静だった。


「相手の得点が続いた時とか、こっちのミスが続いた時は床を濡らして拭いたり、ボールを濡らして交換してもらったり、そういうことをあえてやっています。せこいって言われるかもしれないけれど、流れを変えるためには、結構それも大事なことだと思うんです」

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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