イランの奇策と岡田武史の判断 集中連載「ジョホールバルの真実」(7)
ラルキン・スタジアムは日本人の観客で埋まり、まるで国立競技場のように青く染まっていた 【写真:アフロ】
「おお、スゲエな」と奮い立つ北澤の横に、冷静な男がいた。
「ヒデ(中田英寿)がね、『こんなの、日本と変わらないじゃん』ってボソッと言ったの。こいつ、ムカつくこと言うなと思ったんだけど、確かにそうだなって。そういう冷静さが必要だな、と思い直したんだ」
夕方から断続的に降り注いだスコールもすっかりやんだ午後9時3分、三浦知良と中山雅史によるキックオフで試合が始まった。
イランは戦前の予想と異なり、3トップの布陣できたのだった 【写真:ロイター/アフロ】
スカウティングによれば、イランはアリ・ダエイとホダダド・アジジの2トップのはずなのに、自分の目の前に、アジジがウイング然として張り出していたのだ。
逆サイドではウイングバックのはずのメフディ・マハダビキアが、これまたウイングのように高い位置を取り、相馬直樹の目の前にポジションを取っている。名良橋が振り返る。
「イランが3トップできたのはすぐに分かりました。僕とアジジ、相馬くんとマハダビキア、井原(正巳)さん、秋田(豊)さんとダエイのマッチアップという構図。これはもう、自分はアジジと一騎打ちだなって」
メーンスタンドから見て右に陣地を取った日本は、左に向かって攻めていく。つまり、名良橋のいる右サイドがバックスタンド側で、相馬のいる左サイドがメーンスタンド側だった。日本のベンチの目の前でプレーする相馬が「3トップできています! どうしますか?」と確認すると、岡田武史は間髪入れず「構わずいけ! 思い切って出ろ!」と叫んだ。