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スカウティング通りのゴンゴール
集中連載「ジョホールバルの真実」(8)
「思ったよりイランの圧力を感じなかった」と山口素弘は手応えを感じていた
「思ったよりイランの圧力を感じなかった」と山口素弘は手応えを感じていた【スポーツナビ】

 開始早々、いきなりイランのゴールネットが揺れた。

 前半1分、左サイドからカットインして放った相馬直樹のクロスを、イランのDFがダイビングヘッドでクリアしようとして、自陣ゴールに突き刺してしまったのだ。

 思いがけない先制ゴールに、スタンドから割れんばかりの歓声が上がる。

 だが、背後にいた中山雅史がオフサイドを取られ、ノーゴールの判定が下った。

 その1分30秒後、イランも流れを引き寄せようと、アリ・ダエイが遠目から強引にシュートを狙ったが、GKの川口能活が余裕を持って見送るほど、枠から逸れていった。

 そこから日本の攻勢が続く。

 前半6分には名波浩のロビングパスを北澤豪が頭で落とし、中田英寿が左足でシュートを狙ったものの枠を外れる。前半7分には北澤が立て続けにスルーパスを狙ったが、いずれもわずかに相手DFに阻まれた。


「思ったよりイランの圧力を感じなかったですね」

 中盤のバランスに気を配りながら、山口素弘は手応えを感じていた。

「自分たちのボールの動かし方のほうが上回っていたから、ある程度ボールを握れるな、と思ったし、相手のディフェンスラインの前でパスを受けられていた。それはスカウティング通りで、キーちゃん(北澤)が入り込んでいけば、そこに縦パスを通せた」

 その後も、名良橋晃が右サイドから何度も攻撃を仕掛け、日本が主導権を握り続けていた。だが、だからこそ、山口には一抹の不安があった。流れの良いときに仕留めることができなければ、勝負の神様にそっぽを向かれることが、サッカーでは往々にして起こる。「この流れでなんとか先制したいな、このまま逃し続けているのは嫌だな、そんなふうに感じていましたね」と、山口は振り返る。

 案の定と言うべきか、前半37分、山口の危惧が現実のものになりかける。ペナルティーエリアすぐ外でフリーになったメフディ・マハダビキアが右足を強振し、鋭い弾道のシュートが日本のゴール目掛けて飛んでいく。

 川口が見送ったボールは、鈍い打撃音とともにピッチ内に跳ね返った。マハダビキアの渾身(こんしん)の一撃は、右ポストを直撃したのだ。

中田英寿からのパスを受けた中山雅史が、日本に待望の先制点をもたらす
中田英寿からのパスを受けた中山雅史が、日本に待望の先制点をもたらす【写真:ロイター/アフロ】

 その直後、日本に最初のビッグチャンスが訪れる。

 前半39分、ピッチ中央で名波のパスを受けた中田が、左前方の中山にスルーパスを通す。少し膨らんでスルーパスを引き出した中山が繰り出した左足のシュートは、飛び出してきたGKアハマドレザ・アベドザデの脇の下を破り、ゴールネットを揺らした。

 待望の先制点は、日本がつかみ取った。

 その瞬間、北澤は「練習通りだな」と思った。

 この場面でイランのDFモハメド・ハクプールはボールウォッチャーとなり、マークすべき中山の姿を見失っているが、それは分析済みだった。小野剛が振り返る。

「選手たちにビデオを見せていました。ちょうど前日には私がパスを出して、ゴンがシュート練習をしていたんです。そうしたら、まったく同じ形でゴールが決まった」


 むろん、マークを外した中山にスルーパスをぴたりと合わせた中田のパスセンスの上にこのゴールが成り立っているのは言うまでもない。実は中田は、名波のパスをトラップミスしているが、相手より早く反応してリカバーし、スルーパスを繰り出していた。

 のちに中田はインタビューでこんなふうに振り返っている。

〈この日の自分の体調……体調と言うか自分の調子と流れで、自分がパスを合わせ続ける自信があった〉(『Sports Graphic Number』2010年4月1日号)

 実際、中田はこのあとも決定的なチャンスにつながる好パスを、攻撃陣に送り続けるのである。


<第9回に続く>

集中連載「ジョホールバルの真実」

第1回 戦士たちの休息、参謀の長い一日

第2回 チームがひとつになったアルマトイの夜

第3回 クアラルンプールでの戦闘準備

第4回 ドーハ組、北澤豪がもたらしたもの

第5回 焦りが見え隠れしたイランの挑発行為

第6回 カズの不調と城彰二の複雑な想い

第7回 イランの奇策と岡田武史の判断

第8回 スカウティング通りのゴンゴール

第9回 20歳の司令塔、中田英寿(11月4日掲載)

第10回 ドーハの教訓が生きたハーフタイム(11月5日掲載)

第11回 アジジのスピード、ダエイのヘッド(11月6日掲載)

第12回 最終ラインへ、山口素弘の決断(11月7日掲載)

第13回 誰もが驚いた2トップの同時交代(11月8日掲載)

第14回 絶体絶命のピンチを救ったインターセプト(11月9日掲載)

第15回 起死回生の同点ヘッド(11月10日掲載)

第16回 母を亡くした呂比須ワグナーの覚悟(11月11日掲載)

第17回 最後のカード、岡野雅行の投入(11月12日掲載)

第18回 キックオフから118分、歴史が動いた(11月13日掲載)

第19回 ジョホールバルの歓喜、それぞれの想い(11月14日掲載)

第20回 20年の時を超え、次世代へ(11月15日掲載)

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飯尾篤史
飯尾篤史
東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書として『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)、城福浩『Jリーグサッカー監督 プロフェッショナルの思考法』(カンゼン)などがある。

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