ラグビー日本代表が「キック」で戦う理由 エディー時代と180度違うアプローチ
世界3位のアイルランドに連敗
世界3位のアイルランドに連敗し、厳しい現実を突きつけられた日本代表 【斉藤健仁】
しかし、結果は格下のルーマニア代表にこそ勝利したが、2019年のワールドカップ(W杯)で同じプールに入った世界ランク3位のアイルランド代表には連敗し、結果を残すことができなかった。
この6月の3連戦は、昨秋に続いて2度目のジェイミー・ジャパンの挑戦だった。新たな日本代表ラグビーが世界にどこまで通用するのか、またどこが進化しているのか。その中で、特に注目されたのが戦術上での「キッキングゲーム」だった。
体格で劣る日本代表が世界と戦うための戦術
SO/CTB田村の多彩なキックは日本代表の武器となっている 【斉藤健仁】
まずエディー体制では、パス&ランが主体だった。「シェイプ」と呼ばれる陣形を重層的に配置し、選手間の距離を狭くすることで、ボールポゼッションを高めて、攻め続けるラグビーだった。ボールが動く幅は、40〜50mほどだった。
またジョーンズHCは、飛ばしパスを禁止し、オフロードパス(タックルを受けながらつなぐパス)に代表される50/50のパスも極力避け、相手を一人ずつ引きつけるクイックハンズ(素早いパス)を良しとしていた。大きな相手に対して、パスを多用することで最低でも1対1の状況を作ろうとしていたわけだ。
エディー時代もキックを蹴らないわけではなかったが、大きく陣地を回復する場合が多かった。相手が蹴ったハイパントを捕る練習は15年になってからWTBやFBの選手が継続的に行っていたが、自分たちから蹴る攻撃的なキック、特にハイパントは「捕れる選手がいない」(ジョーンズHC)とほとんど戦術的に使わなかった。またグラバー(地面に転がす)キックも練習し何度か蹴っていたが、それを軸にして攻めることはなかった。
「50/50の状況がたくさん作れた」と評価も
相手と競り合うリーチ(右)。蹴ったボールを再確保することを狙っている 【斉藤健仁】
また選手たちは声をそろえてジョセフHCのラグビーは、「スマートだ」、「エナジーをセーブしている」という。その意図は、自分たちより体の大きな相手に対してボールをキープし、コンタクトする回数を増やすと疲れてしまうため、攻撃的なコンテスト(相手と競る)キックを効果的に使う。キックをキャッチする時に基本的には1対1となる点ではエディーの考えと共通していると言えよう。
さらに、キックを使うことでアンストラクチャー(崩れた局面)を自分たちで作り出し、ボールをキャッチした後、もしくはターンオーバーした後、「2秒以内」に素早く攻める場所を決めて、自分たちの攻める形を作って意図的に攻める。つまり、キックすることで崩れた状態を「ストラクチャー化」することが狙いで、22対50と敗戦したアイルランドとの1戦目の後、前半の戦いを振り返って「50/50の状況がたくさん作れた」とジョセフHCはキックの使い方には一定の評価を与えていた。