ラグビー日本代表が「キック」で戦う理由 エディー時代と180度違うアプローチ

斉藤健仁

世界3位のアイルランドに連敗

世界3位のアイルランドに連敗し、厳しい現実を突きつけられた日本代表 【斉藤健仁】

 6月のラグビー日本代表のテストマッチが終了した。昨年9月にジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任、直後の11月には準備期間がない中で良く戦い、この春はサンウルブズ、日本代表候補合宿である「NDS(ナショナルディベロップメントスコッド)合宿」を通して、選手たちを見極めて継続的に強化してきただけに、期待は大きかった。

 しかし、結果は格下のルーマニア代表にこそ勝利したが、2019年のワールドカップ(W杯)で同じプールに入った世界ランク3位のアイルランド代表には連敗し、結果を残すことができなかった。

 この6月の3連戦は、昨秋に続いて2度目のジェイミー・ジャパンの挑戦だった。新たな日本代表ラグビーが世界にどこまで通用するのか、またどこが進化しているのか。その中で、特に注目されたのが戦術上での「キッキングゲーム」だった。

体格で劣る日本代表が世界と戦うための戦術

SO/CTB田村の多彩なキックは日本代表の武器となっている 【斉藤健仁】

 ジェイミー・ジャパンではなぜキックを多用するのか――日本代表の前指揮官で豪州出身のエディー・ジョーンズ(現イングランド代表HC)も、ニュージーランド(NZ)出身のジョセフHCも、それぞれ、体格で劣る日本代表が世界とどう戦うかと考えた末に特徴ある戦術を採用したが、そのアプローチの仕方は180度異なっている。ジョセフHCはパスではなく、キックに活路を見出している。

 まずエディー体制では、パス&ランが主体だった。「シェイプ」と呼ばれる陣形を重層的に配置し、選手間の距離を狭くすることで、ボールポゼッションを高めて、攻め続けるラグビーだった。ボールが動く幅は、40〜50mほどだった。

 またジョーンズHCは、飛ばしパスを禁止し、オフロードパス(タックルを受けながらつなぐパス)に代表される50/50のパスも極力避け、相手を一人ずつ引きつけるクイックハンズ(素早いパス)を良しとしていた。大きな相手に対して、パスを多用することで最低でも1対1の状況を作ろうとしていたわけだ。

 エディー時代もキックを蹴らないわけではなかったが、大きく陣地を回復する場合が多かった。相手が蹴ったハイパントを捕る練習は15年になってからWTBやFBの選手が継続的に行っていたが、自分たちから蹴る攻撃的なキック、特にハイパントは「捕れる選手がいない」(ジョーンズHC)とほとんど戦術的に使わなかった。またグラバー(地面に転がす)キックも練習し何度か蹴っていたが、それを軸にして攻めることはなかった。

「50/50の状況がたくさん作れた」と評価も

相手と競り合うリーチ(右)。蹴ったボールを再確保することを狙っている 【斉藤健仁】

 一方のジョセフHCの戦術はNZ流の「ポッド」であり、15年にハイランダーズをスーパーラグビー優勝に導いたラグビーとほぼ同じ。「人よりボールの方が速い」という考えに基づき、グラウンド中央付近にFW3人のユニットを2つ、両サイドにFWとBKが一体となった4人のユニットを2つ配置して、フィールドの幅を70mいっぱいに使う。ディフェンスでも広く立っており、ボールを取り返せばすぐにアタックできる利点もある。そしてSH、SOがゲームコントローラーとなって、パスもするが、スペースがあれば自らハイパントやグラバーキックを使って積極的に攻める。

 また選手たちは声をそろえてジョセフHCのラグビーは、「スマートだ」、「エナジーをセーブしている」という。その意図は、自分たちより体の大きな相手に対してボールをキープし、コンタクトする回数を増やすと疲れてしまうため、攻撃的なコンテスト(相手と競る)キックを効果的に使う。キックをキャッチする時に基本的には1対1となる点ではエディーの考えと共通していると言えよう。

 さらに、キックを使うことでアンストラクチャー(崩れた局面)を自分たちで作り出し、ボールをキャッチした後、もしくはターンオーバーした後、「2秒以内」に素早く攻める場所を決めて、自分たちの攻める形を作って意図的に攻める。つまり、キックすることで崩れた状態を「ストラクチャー化」することが狙いで、22対50と敗戦したアイルランドとの1戦目の後、前半の戦いを振り返って「50/50の状況がたくさん作れた」とジョセフHCはキックの使い方には一定の評価を与えていた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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