ラグビー日本代表が「キック」で戦う理由 エディー時代と180度違うアプローチ

斉藤健仁

ルーマニア戦ではキックからトライが生まれる

WTB山田はルーマニア戦、アイルランドとの第2戦で、キックからトライを奪った 【斉藤健仁】

 エディー時代はパスとランを多用するためポゼッションが高くなっていたが、ジェイミー・ジャパンではキックを有効的に使いつつ、アンストラクチャーを中心に手数をかけずトライを狙い、ポゼッションが低くても、勝てるラグビーを目指しているというわけだ。

 6月のルーマニア戦、アイルランドとの第1戦でも当然ながらキックを軸に攻めた。特に多く見られたのは自陣の10mラインからハーフウェイラインまでの間から、SHやSOのハイパントだ。WTB福岡堅樹、松島幸太朗、そして山田章仁というキャッチが得意な選手の存在も大きかった。ほかにもSOの裏へのキック、SOやCTBからのグラバーキックと多様な攻めを見せた。特にルーマニア代表戦のWTB山田のトライは、クイックリスタートから攻め、CTBティモシー・ラファエレのグラバーキックから生まれた。

 ただアイルランドの第1戦では「オフボール(ボールがない場面)の部分でこだわっていなかった」と指揮官が振り返った通り、SO田村のキック後、そのボールを追ったCTBウィリアム・トゥポウのプレーがノックオンと判定され、その後もキックを使って敵陣深くに入っても簡単なオフサイドをしたことが響いた。またこの試合では、相手が日本代表を分析、そして警戒していたこともありグラバーキックは効果的にならず、キックを使って相手陣深くに入っても、トライを取り切れなかったことが痛かった。

キックとボール保持の「バランスを取ることが大事」

日本代表の共同主将を務めるHO堀江 【斉藤健仁】

 そんなジョセフHCは、アイルランドとの第2戦の2日前、「昨年11月のウェールズ戦、6月のルーマニア戦で、キックを有効的に使ってその後に仕事をすれば効果的なプレーになったことは証明できている」と言い、さらに「キックをした後、プレッシャーをかけるところで、しっかりアティテュード(姿勢、覚悟)を持っていかないと、何もできないし、うまくいかない。キックをすることによって50/50、こぼれ球になる状況に持っていく。コンテストは野口(竜司)、松島、福岡がいい仕事をしていたが、その後、ボールを持っていない選手がどれだけ働けるか。また(キックとポゼッションの)バランスをしっかり取ることが大事」と続けた。

 迎えたアイルランドとの第2戦、ボールを動かして相手のWTBが上がってきたところでSHがボックスキックを蹴る、はたまた簡単なグラバーキックをなくすなどバランスを取ったため、キックの回数は30から20へと減った(昨秋のウェールズ戦は31回、ルーマニア戦は26回だった)。またディフェンスシステムが機能していたこともあり、後半、早いうちにトライを取れていれば、はたまたモールでトライを取ることができれば勝つ流れにもちこむことができたかもしれない。だが、それができず、13対35で敗戦した。

 ある選手が「守り疲れたという部分がある」と言えば、ほかの選手は「もう少しフィジカル(力強さ)をつけないといけない」と敗戦を振り返った。アイルランドのような強豪と対戦する場合は、やはり守っているだけでも疲労がたまる。チーム戦術の落とし込みに時間をかけた部分もあるかもしれないが、キックを使ったスマートな、そしてエネルギーの消耗を避ける攻撃をするにしても、チーム全体としてもう少しフィジカルやフィトネスを上げることは欠かせない。

相手に分析、研究されたときにどう戦うか?

緊急招集で奮闘したLOトンプソン「一番は4年間でチームを作ること」 【赤坂直人/スポーツナビ】

 この試合でゲームキャプテンを務めたFLリーチ マイケルが「ラグビーの原点は戦うことだが、日本代表はよくやったと思う。だが世界トップ3の相手との差を今回しっかりと学んだ。個々のスタンダードを上げないといけない」と言えば、HO堀江翔太は「スタッフが決めたことを信頼してプレーするということが一番強いチーム。どれだけ(戦術を)理解して守っていくかが大切」と語気を強めた。19年にベスト8以上に入るためには、個人としてもチームとしてもまだ足りないことは多いのが現状である。

 この試合のため1試合限定で代表復帰を果たした、W杯3回出場のLOトンプソン ルークが「ゲームプランと勉強(が大事)。一番は4年間でチームを作ること。ゲームプランと自分のレベルを上げてほしい」とエールを送るように、まだ本番まで2年あまり残されている。

 今後、もちろんジェイミー・ジャパンはキッキングゲームを軸に戦うことは変わらないだろう。ただ相手に分析、研究されたときにどう戦うか、また相手や点差といった状況を見て、試合中に4つのポッドから3つのポッドに変えるなど戦術的な幅を持つことも必要かもしれない。ただ個人的には、戦術やゲームプランという点よりも、代表としてのプライドやフィジカルといった、個人的な部分で負けていたことが残念でならなかった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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