W杯の奇跡を支えた「マジックハンド」 エディーが称賛した異色のトレーナー

斉藤健仁

選手としてビーチサッカーW杯に出場

元ビーチサッカー日本代表で、現在はトレーナーとして活躍する佐藤義人 【斉藤健仁】

 2015年ワールドカップ(W杯)で南アフリカからの金星を含む3勝を挙げたエディー・ジャパンのスタッフに、大会本番の春からチームに加わった2人の「佐藤」がいた。

 一人はデスメタルバンドのボーカルでもあることが話題となった通訳の佐藤秀典氏(現在もジェイミー・ジャパンの通訳を務めている)、もう一人は“第3のトレーナー”で「コンディショニングスタッフ」という肩書きだった佐藤義人だ。

 後者の佐藤も実は、治療の仕事のためにたまたま訪れた砂浜でビーチサッカーに出会い、選手として06年のFIFAビーチサッカーW杯で日本代表としてベスト8に進出した異色の経歴を持っており、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)からは「マジックハンド」とも称された人物である。

 アスレティックトレーナーであり、鍼灸師でもある佐藤の下には、代表チームを離れてからも、サンウルブズのメンバーであり、日本代表の共同キャプテンでもあるHO堀江翔太、CTB立川理道の2人を筆頭に、サンウルブズやトップリーグ所属のラグビー選手の多くが足を運んでいる。この春も堀江は2カ月ほどの休養中によりよいパフォーマンスを求めて3週間、立川は2月に負傷した左膝の治療が目的で2週間、佐藤の治療院(SATO.SPORTS)などがある京都に泊まりで通い詰めた。

自身のケガが原因でトレーナーの道へ

日本代表の立川理道は、天理大時代から佐藤の治療を受けていた 【写真:アフロスポーツ】

 そもそも、どうしてサッカー畑だった佐藤が、エディー・ジャパンのスタッフになったのか。

 かつてJリーガーを目指した佐藤は、高校時代に自転車に乗っているときに交通事故に遭ったことをきっかけに、「ケガで夢を絶たれた。同じような思いをしている選手に何かしたい」と医療の道を目指す。高校卒業後、鍼灸師の資格を取り、23歳で大阪・枚方市の自宅で開業。5年後、京都の木津川市に治療院を経営するようになった。代表歴もあるJリーガーも多く顧客に抱えており、関西で「ケガを治してしまう凄腕のトレーナーがいる」という名声を得ていたという。

 ラグビーでは東海大仰星高、天理大の選手たちがケガをしたものの試合に間に合わせたいときに、それぞれの監督が佐藤の下に選手を連れてきていた。実は、佐藤と立川の関係は古く、大学4年時の大学選手権前に腰を痛めてボールを蹴れない状態になったが、佐藤の治療の甲斐もあり、キャプテンとして天理大を準優勝に導くことに成功していた。

「マイナスをいかにプラスにして帰ってもらうか」

15年W杯の日本の快進撃は、多くのスタッフの支えもあって成し遂げられた 【写真:ロイター/アフロ】

 14年の年末、佐藤はラグビー日本代表のチーフトレーナーの井澤秀典氏から、15年はラグビー日本代表をほぼフルタイムで手伝ってほしいと連絡を受けた。もともと佐藤と井澤はアスレティックトレーナーの研修会の同期で知り合いだった。佐藤は「W杯本番では、試合の合間が3日や1週間とありましたが、その間で、選手のケガを治すスタッフが必要だったのだと思います」と当時を振り返る。

 佐藤の治療はほかのトレーナーとは一線を画している。独学で身につけた動作解析(バイオメカニクス)的な観点から、選手の身体の状態を分析し、テーピングを使うときもあるが、手技中心で施術する。

「機械を使わず、自分の目と手で、1対1で勝負してきた。その蓄積が一番大きいですね。ケガや痛みの原因を、歩き方や走り方の癖を見て、医学的な知見も踏まえて、どこが問題か判断します。昔は時間がかかりましたが、今はパッと見てわかるようになりました。根本的に治すには何が必要かを考え、痛みを取るだけでなく、マイナスをゼロではなく、いかにプラスにして帰ってもらうか。そのために治すだけでなくトレーニングもしないといけない。そのスタンスは昔から変わりません」(佐藤)

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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