W杯の奇跡を支えた「マジックハンド」 エディーが称賛した異色のトレーナー
選手としてビーチサッカーW杯に出場
元ビーチサッカー日本代表で、現在はトレーナーとして活躍する佐藤義人 【斉藤健仁】
一人はデスメタルバンドのボーカルでもあることが話題となった通訳の佐藤秀典氏(現在もジェイミー・ジャパンの通訳を務めている)、もう一人は“第3のトレーナー”で「コンディショニングスタッフ」という肩書きだった佐藤義人だ。
後者の佐藤も実は、治療の仕事のためにたまたま訪れた砂浜でビーチサッカーに出会い、選手として06年のFIFAビーチサッカーW杯で日本代表としてベスト8に進出した異色の経歴を持っており、エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)からは「マジックハンド」とも称された人物である。
アスレティックトレーナーであり、鍼灸師でもある佐藤の下には、代表チームを離れてからも、サンウルブズのメンバーであり、日本代表の共同キャプテンでもあるHO堀江翔太、CTB立川理道の2人を筆頭に、サンウルブズやトップリーグ所属のラグビー選手の多くが足を運んでいる。この春も堀江は2カ月ほどの休養中によりよいパフォーマンスを求めて3週間、立川は2月に負傷した左膝の治療が目的で2週間、佐藤の治療院(SATO.SPORTS)などがある京都に泊まりで通い詰めた。
自身のケガが原因でトレーナーの道へ
日本代表の立川理道は、天理大時代から佐藤の治療を受けていた 【写真:アフロスポーツ】
かつてJリーガーを目指した佐藤は、高校時代に自転車に乗っているときに交通事故に遭ったことをきっかけに、「ケガで夢を絶たれた。同じような思いをしている選手に何かしたい」と医療の道を目指す。高校卒業後、鍼灸師の資格を取り、23歳で大阪・枚方市の自宅で開業。5年後、京都の木津川市に治療院を経営するようになった。代表歴もあるJリーガーも多く顧客に抱えており、関西で「ケガを治してしまう凄腕のトレーナーがいる」という名声を得ていたという。
ラグビーでは東海大仰星高、天理大の選手たちがケガをしたものの試合に間に合わせたいときに、それぞれの監督が佐藤の下に選手を連れてきていた。実は、佐藤と立川の関係は古く、大学4年時の大学選手権前に腰を痛めてボールを蹴れない状態になったが、佐藤の治療の甲斐もあり、キャプテンとして天理大を準優勝に導くことに成功していた。
「マイナスをいかにプラスにして帰ってもらうか」
15年W杯の日本の快進撃は、多くのスタッフの支えもあって成し遂げられた 【写真:ロイター/アフロ】
佐藤の治療はほかのトレーナーとは一線を画している。独学で身につけた動作解析(バイオメカニクス)的な観点から、選手の身体の状態を分析し、テーピングを使うときもあるが、手技中心で施術する。
「機械を使わず、自分の目と手で、1対1で勝負してきた。その蓄積が一番大きいですね。ケガや痛みの原因を、歩き方や走り方の癖を見て、医学的な知見も踏まえて、どこが問題か判断します。昔は時間がかかりましたが、今はパッと見てわかるようになりました。根本的に治すには何が必要かを考え、痛みを取るだけでなく、マイナスをゼロではなく、いかにプラスにして帰ってもらうか。そのために治すだけでなくトレーニングもしないといけない。そのスタンスは昔から変わりません」(佐藤)