トップ選手にあり、錦織に足りないモノ 頂点へ「今は我慢すべきタイミング」
錦織のなかにある「トップ選手の定義」
錦織圭のなかにある「トッププレーヤーにあるべきモノ」とは? 【写真:ロイター/アフロ】
今大会の錦織圭(日清食品)が口にした言葉で、最も印象に残ったのが、この一言だ。
テニスの全仏オープン男子シングルス1回戦の対タナシ・コッキナキス(オーストラリア)戦後のこと。セットカウント3−1で勝利したものの、24本のアンフォースト・エラー(自ら犯したミス)をした自分を、彼は厳しく戒める。
「今日の反省点はいっぱいある。フリーポイントを相手にあげすぎた」
目指す理想像を描き、そこに向けて自分を駆り立てるように、錦織はスタートを切っていた。
「トップ選手に値しない」との言葉は、彼のなかで、トップ選手の定義がかたまっていることを示しもする。
「トッププレーヤーにあるべきモノというのは、明らかにある」
錦織はそう断言した。
「あるべきショットだったり、プレーの仕方だったり。特にトップ4にいる選手たちは、明らかに、していることが他の選手と違う」
だからこそ錦織は、自身もそこに入っていくため「もう少し、磨きたいところがたくさんある」と、少しもどかしそうに言った。
第1セットは世界1位を圧倒したが……
マリーとの準々決勝、第1セットで見せた錦織のプレーには“トッププレーヤーにあるべきモノ”を手にしていた 【写真:アフロ】
マリーやノバク・ジョコビッチ(セルビア)のように守備が固く、ミスの少ない選手と戦う時、錦織は常に「攻めるべきか我慢すべきか、その見極めが重要」と繰り返してきた。そしてこの日のマリー戦で、錦織はその攻守/硬軟の完璧なまでの切り替えを、試合開始直後から示してみせる。
鋭敏(えいびん)な適応性と調整力を発揮したのは、自身がサーブを打つ第2ゲーム。まずは早い段階で強打を放つも、それはラインを割っていく。続くポイントでは、長い打ち合いを嫌うようにマリーが放ったドロップショットがミスになった。その次の打ち合いでは、やや慎重になりすぎたか、先にマリーに仕掛けられて落とす。すると続く2ポイントは、いずれも先に仕掛け、打ち合いを支配しつつ、まずはフォアで、次はバックをストレートに叩き込み、2本連続で鮮やかなウイナーを奪った。最後はマリーが、またもドロップショットをミス。このゲームで積極性と忍耐のバランスを見極めたかのように、以降、錦織は多くの局面で世界1位を圧倒した。
第1セットは、わずか33分で錦織が奪取。この時の彼は間違いなく、“トッププレーヤーにあるべきモノ”を手にしていた。