少年・錦織圭はいかに成長してきたか 米国で見守り続けるキーパーソンに聞く

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“第二の故郷”で錦織を支える人たちが抱く錦織圭の人物像とは? 【坂本清】

 テニスプレーヤーとしての錦織圭は、日本と米国、2つの国で育まれた。2003年から拠点を置き、“第二の故郷”とも言うべき米国フロリダ州のIMGアカデミーには、それぞれの立場で錦織を支え、見守ってきた人たちがいる。当時13歳だった少年はいかにして世界トップ選手へと成長していったのか。渡米当初を知る2人のキーパーソンに聞いた。(文中敬称略)

留学当初は「おびえた様子だった」

錦織を米国で迎え入れたニック・ボロテリー。85歳になった今もテニスの指導を続けている 【坂本清】

 錦織の非凡な才能をすぐさま見いだした一人が、ニック・ボロテリーである。IMGアカデミーの前身、「ニック・ボロテリー・テニス・アカデミー」の創設者で、「盛田正明テニス・ファンド」の特待生として渡米した錦織を受け入れた、その人である。これまでにマリア・シャラポワやアンドレ・アガシら、10人もの世界ナンバーワンプレーヤーを輩出した手腕でも知られている。

 85歳になった今も、コートに立ち指導を続ける“熱血漢”は、まだ小さかった13歳の錦織少年のことをよく覚えている。

「初めて会った彼はおびえた様子でした。ホームシックだったのだと思います。米国には寿司もないですし(笑)、6、7人の生徒が同部屋でしたが、(英語ができないので)話しかけることもできないわけです。とにかく怖がっていたと思います」

ボロテリーは、錦織が持つ天性の才能をすぐさま見いだした 【坂本清】

 ボロテリーは、慣れない異文化に戸惑いを見せていた少年が、将来成功を収める選手になると早くから予見していたという。特にこの名コーチをうならせたのは、視覚情報を瞬時にそしゃくし、反射的に手足の動きにつなげる能力だ。これは「誰かに教えられてできるものではない」と断言する。そして、2011年からコーチを務めるダンテ・ボッティーニ、13年末から指導する元世界ランキング2位のマイケル・チャンとの出会いを経て、その才能は大きく開花した。ボロテリーは、その過程を絶えず見続けてきた。

「圭が少しずつ成長する中で、私は彼が特別な何かを持つ選手なのだと確信するようになりました。何より、圭は自分を理解してくれる素晴らしい人たちに囲まれて進歩してきたのです。ダンテはフィジカルの強さを与え、そこにマイケル・チャンが加わり、ファイトし続けることを教えた。そこから彼が学んだのは、錦織圭とはどんな人物なのか、そして自分こそがチャンピオンなのだと、人々に表現すること。他の選手との違いはそこにあります。彼は自分が望む何者にでもなれるのです」

どうしたら成長できるか日々考えていた

 もう一人のキーパーソンがマネージャーのオリバー・ヴァン・リンドンク。錦織のスケジュール管理から取材対応までこなすこの男性も、ボロテリーと同じく、錦織が13歳の時からそばで見続けてきた一人だ。当時、彼の目を引いたのは、錦織のテニスに対する実直な姿勢だった。

「圭は他の子たちと違って、決して何に対しても不満を口にすることなく、他人を非難することもなく、どうしたらもっと成長できるかを日々考えて過ごしていました。それが彼の特別なところだと思います」

マネージャーを務めるヴァン・リンドンク。錦織とは足掛け15年の付き合いになる 【坂本清】

 そんなヴァン・リンドンクに対して、時に錦織は弱音を吐くことがある。特に思い出深いと語るのが、2008年2月、18歳で挑んだデルレイビーチ国際。予選勝ち上がりでATP(男子プロテニス協会)ツアー初優勝を果たし、日本のエース候補として一躍名をとどろかせた大会だが、実は大会前、錦織は出場したくないとごねていたという。

「直近の(ツアー下部にあたる)チャレンジャーシリーズの3大会があまり良い結果ではなかったので、圭は(試合に)『行きたくない』と言い出したんです。2人でニック(・ボロテリー)に会った時もそう言って、涙を浮かべていた。でも、ニックは『行きなさい』と出場を促したのです。そして予選を通過し、本選でも勝って、勝って、勝ち続けて優勝してしまった。帰りの車中は、グレン(・ワイナー/当時の錦織のコーチ)と3人でずっと笑いっぱなしでしたよ。『何てことが起きたんだ!』ってね。(年初には)世界288位だった選手が、ATPトーナメントで優勝してしまったのですから」

 トッププレーヤーとなった今でも、錦織に「やりたくない」と言われることがあるのだという。そんな時の解決法は「話すこと」と「聞くこと」だとヴァン・リンドンクは言う。錦織の意見に耳を傾け、それぞれの良いところ、悪いところを説明し、対話する。こういった小さなやり取りを積み上げながら、足掛け15年の信頼関係は築かれていったのだ。

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