チェルシーに勢いを与えたFA杯準決勝 ディテールの差を見せ、トッテナムを撃破

清水英斗

連敗で勝ち点差が10から4に縮まる

チェルシーはFAカップ準決勝でリーグ2位のトッテナムを破り、決勝進出を決めた 【Getty Images】

「フィフティーだ」(アントニオ・コンテ)

 勝ち点差4。プレミアリーグの優勝争いは、まだ終わっていなかった。3月の時点では勝ち点10の差を付け、首位を独走していたチェルシー。しかし、4月に入り、クリスタル・パレスとマンチェスター・ユナイテッドに2敗を喫すると、リーグ戦7連勝と波に乗る2位トッテナムの猛追撃に遭う。第33節終了時点で、勝ち点差は4に縮まった。コンテ監督は優勝の可能性を「フィフティー」と表現し、緊張感を保っている。

 今季、コンテが持ち込んだ3−4−3システムは、チェルシーの選手たちの個性をうまく生かした。遅攻時は3バックが後方からビルドアップ。両ウイングハーフのマルコス・アロンソとビクター・モーゼスが幅を取り、両サイドを深く攻める。一方、カウンター時はエデン・アザールを中心に、ペドロ・ロドリゲス、ジエゴ・コスタらの前線3人が縦に速く攻めきる。

 守備時はセンターハーフのエンゴロ・カンテとネマニャ・マティッチのボール奪取力を生かしてハイプレスをかける。時には逆にお尻を下げて5バックに移行し、深く守ることもできる。遅攻、速攻、ラインの高低。あらゆる攻守を使い分ける「コンテ式3−4−3」は、チェルシーに王者の風格を漂わせていた。

今季好調の要因はメンバーの固定

メンバーを固定してきたチェルシーだが、トッテナム戦ではターンオーバーでウィリアン(右)らを起用した 【写真:ロイター/アフロ】

 今季好調の要因として挙げられるのは、メンバーを固定できたこと。昨季10位のチェルシーにはチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグの出場権がないため、過密日程を避け、コンディションを整えやすい。イタリアからやって来た新しい監督が、新しいシステムを浸透させる上で、ベストメンバーに固定して戦えることは大きなメリットだった。

 ところが、ここに来てけがや病気でメンバーがそろわない試合が増加。モーゼスを欠いたクリスタル・パレス戦は、ペドロを右ウイングハーフに下げてセスク・ファブレガスを前線に起用。マンチェスター・ユナイテッド戦はマルコス・アロンソとGKティボー・クルトワを欠き、さらにモーゼスなどコンディションの悪い選手が強行出場していた。これまで固定して戦ってきただけに、ターンオーバーを決断しづらいチームになったことは否めない。

 そんな状況で迎えた22日のFAカップ準決勝は、絶好調トッテナムとの対決だった。リーグとFAカップの2冠を目指すことはもちろん、リーグ戦のライバルにこれ以上勢い付かせるわけにはいかない。

 チェルシーの見どころはいくつかあった。1つは、中2日で続く第34節サウサンプトン戦を見据えて、ターンオーバーを成功させること。コンテは、復帰したマルコス・アロンソとGKクルトワに加えて、前線にウィリアンとミシー・バチュアイを起用。ジエゴ・コスタとアザールをベンチに置いた。ウィリアンは前半5分にFKで先制ゴールを挙げ、後半16分に投入したアザールが30分に決勝ゴールを挙げるなど、ターンオーバーした前線のパフォーマンスは上々。

 一方、守備面はどうか。クリスタル・パレス戦やマンチェスター・ユナイテッド戦では、カンテとマティッチが敵陣に置き去りになった状況で、スピード不足の3バックがカウンターにさらされ、失点につながった。これを防ぐことが重要だ。トッテナム戦の3バックは、ダビド・ルイス、セサル・アスピリクエタに加えて、ナタン・アケを起用。ダビド・ルイスの両脇を、スピードのあるアスピリクエタとアケが固めたことで、背後のスペースへの対応力が上がった。

前回の対戦で露呈した3バックの弱点を修正

リーグ戦ではデル・アリ(左)に弱点を突かれたが、チェルシーはアグレッシブな守備で対応した 【写真:ロイター/アフロ】

 そして、もう一つ重要なポイントがある。

 すでにトッテナムには、3−4−3の攻略法を確立されていた。連勝を13で止められた第20節のリーグ戦では、同じ3−4−3でかみ合わされた上で、弱点を抜け目なく突かれ、0−2の敗戦を喫している。

 トッテナムが突破口としたのはクロスだった。特に右サイドからファーサイドをねらってクロスを上げたとき、センターバックのアスピリクエタは上背があるタイプではない上に、その外側のウイングハーフのモーゼスは元々攻撃の選手なので、守備のカバーリングが遅れがち。この3バックの弱点である「DFとMFのつなぎ目」を狙い、クリスティアン・エリクセンがピンポイントでクロスを蹴る。そして、デル・アリが徹底してファーへ流れてヘディングをねらい、リプレーを見るかのような形で2ゴールを挙げた。

 当然、今回のチェルシーはその形を防ぐ必要がある。3バックはハリー・ケイン、デル・アリ、エリクセンに対し、前に出て激しくプレスをかけて行く。3バックが空けたスペースはマティッチが埋める。両ウイングの寄せを含めて、クロスの出し手を自由にしない。一方、ファーに流れる受け手のデル・アリに対しても、アスピリクエタとモーゼス、あるいはアケとアロンソが距離を縮めて、挟み込む。ボールを持って攻め込むトッテナムに対し、チェルシーはアグレッシブな守備で対応した。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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