チェルシーに勢いを与えたFA杯準決勝 ディテールの差を見せ、トッテナムを撃破

清水英斗

得点は両チームともスーパーゴール

精度の高いクロスでゴールを演出したエリクセン(白) 【写真:ロイター/アフロ】

 この整理された守備をトッテナムがこじ開けるとしたら、まさしくスーパーゴールしかない。それが2つも決まったから、脱帽だ。前半18分、セットプレーの流れからエリクセンが左足でクロスを蹴ると、ニアでハリー・ケインがしゃがみ、頭頂部あたりでバックヘッド。普通におでこや側頭部で合わせたら、GKが待つニアへ飛ぶか、枠を外れるしかなかったが、意表を突くバックヘッドで、ボールはファーサイドネットへ。ケインのスーパーゴールだった。

 後半7分の2点目もすごい。中盤の右サイド、低めの位置でエリクセンがボールを受け、アーリークロスとスルーパスの中間のような鋭いボールをGKとDFの間へ。ボールはくくっと曲がり、ファーからデル・アリが飛び出し、難しいショートバウンドに滑り込みながらゴールネットを揺らす。ファーに流れるデル・アリは警戒されていたが、それでもこじ開けたスーパーゴールだった。エリクセンに対しては、マティッチがゆっくり寄せていたが、まさかこの位置でこれほどの脅威になるとは、思っていなかったのだろう。とんでもないクロスの精度だ。第20節のリーグ戦を含めて、トッテナムがチェルシーから挙げた4点は、すべてエリクセンのクロスだった。

 チェルシーがしっかりと対策しても、こじ開けて2点を奪ったトッテナムの攻撃力は目覚ましい。一方のチェルシーも、1点目のウィリアンのFK、4点目のマティッチのロングシュートはファンの腰を浮かせた。お互いに2点ずつのスーパーゴールだ。

勝負を分けたのは小さなミス

リーグ残り6試合を「ファイナル」と位置付けるコンテ。トッテナムを破って勢いを得た 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし、勝負を分けたのは、ディテールだった。

 前半43分のPKにつながるシーンでは、トッテナムは左ウイングハーフに入ったソン・フンミンが、間に合わないタイミングで軽率なスライディングを、ペナルティーエリア内で仕掛けてしまった。モーゼスの転び方には意図を感じるが、しかし、接触があったのは事実で、PKでも仕方がない。FWが最終ラインで守備をすれば、このような事故が起きるリスクはある。トッテナムは、ソン・フンミンのサイド起用が裏目に出た。

 後半30分のチェルシーのCKでも、こぼれ球に対し、ペナルティーアーク辺りで蹴り込んだアザールに寄せ切れなかった。トッテナムのCKの守備は、前線にカウンター要員を置かず、フィールドプレーヤー全員で守っていただけに、この守備は漏らしたくなかったところ。この時間帯に迎えた1本目のCKで、お互いに選手交代もあり、すきが生まれてしまったのだろう。

 頂上対決と呼ぶにふさわしい、スーパーゴールの応酬に舌鼓を打ったが、最終的に4−2の差を生んだのは、小さなミスだった。

 トッテナムを破り、FAカップ決勝進出を決めたチェルシー。ターンオーバーを成功させ、ライバルをたたき、この大一番をモノにした価値は大きい。コンテはリーグ残り6試合を「ファイナル」と位置付ける。取りこぼしが許されない終盤戦に向け、貴重な勢いを得た。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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