2チーム制で心労から解放される スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(13)

木村浩嗣

ストレスになっていた子供の選抜

11月18日リーグ第2節、Aチームを率いて。お隣のクラブのチームをホームに招いてのダービーマッチ。強豪相手に何とか粘って引き分けて(1−1)、初の勝ち点を獲得した。監督としては一安心で、子供と親は大満足 【木村浩嗣】

 今季は監督として初めての経験をすることになった。AチームとBチーム、2つの監督を掛け持ちすることになったのだ。私の担当する子供は28人いて、例年ならばその中からうまい子だけを選抜して1チームを作るのだが、今年は14人ずつのチームを2つ作ってリーグに参戦することにしたのだ。

 このコラムでも何度も書いてきた通り、子供の選抜は頭の痛い問題。私にとって大きなストレスになっていた。

 セビージャ市が主催する、スクールリーグが認める最大の選手登録数は18。つまり、例年のように1チーム制ならば、選外となった10人の子供たちは練習オンリーで試合には出られなかった。選に漏れた子の親からは当然文句が出る。「うちの息子をのけ者にした迫害者」などと呼ばれたことも過去にはある。

 選抜による軋(あつれき)はこれで終りではない。

 リーグが開幕すると、その18人のうちから6人の招集外を選ばなくてはならず、そこでも不満は避けられない。「あなたには子供の苦しみが分からない」などの声に毎週心を痛めねばならないかもしれない。駄目押しが先発メンバー選びに関する苦情。「うちの子はプレー時間が少なかった。不公平だ」などの不平を、試合後に聞く羽目になる。

恒常的に8割ほどの親に必ず憎まれる環境だったが……

 こうしたクレームの“無間地獄”をわれわれスクールの監督は生きている。

 これがサッカー連盟登録チームであれば、セレクションがあって誰もが入れるわけではないから、「監督の決断だ」と言えば親は納得せざるを得ない。しかし、誰でも入れるスクールなのに、選抜によって試合に出られない子がいるというのは、親たちの目には「矛盾」に映る。まるで義務教育なのに教育の権利を奪われているかのように感じるのだろう。

 選手登録数とベンチ入り人数を決めているのはセビージャ市であり、われわれはそのルールに従っているにすぎない。しかし親たちの批判は市ではなく、彼らの息子を選ばなかった目の前の監督に集中する。

 28人の子供の親のうち、選手登録外の10人の親がシーズンを通して監督に深い恨みを抱いており、毎週末には6人の親が怒り、試合後には5、6人の親のご機嫌が斜めになる。つまり、構造的に恒常的に8割ほどの親に必ず憎まれる環境の中に、私は置かれていたのだった。

 そんな心労からついに私を解放してくれたのが、今季の2チーム制である。28人全員(1チーム14人)を選手登録でき、14人のうち12人が招集される。病気やけがで毎週2人くらい脱落するもので、そうなると私は招集外を選ぶ必要すらない。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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