2チーム制で心労から解放される スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(13)
チーム分けは力量だけでなく精神面も考慮
翌19日、Bチームを率いてのアウェーゲーム。シーソーゲームを制して勝利(6−4)。試合後は喜んだ親のカメラの前で、チーム全員で記念撮影をした。開幕戦の兄弟対決に勝っていたBチームはこれで2連勝 【木村浩嗣】
第2節はAチームが金曜、Bチームが土曜の試合だったので両方のベンチに立った。監督として試合を率いている時の緊張度は、ジャーナリストとしてプロの試合を取材している時の比ではないからクタクタに疲れた。Aが引き分け、Bが勝利だったから良かったが、2連敗だったらどうなっていたことか。
物理的に2試合を指揮できない週末もあるので、Aチームには代理監督を立てた。本当は「今週はA、来週はB」と交互に行えればいいのだが、それはリーグの規定で禁止されているので、私は便宜的にBの監督となった。もっとも、厳密に言えばBの監督の私がAのベンチに入るのも禁止なのだが、そこは緩いスペインなので、「Aの監督が病気で……」とうそをついて何とか切り抜けている。
AチームとBチームは力が同じになるように分けた。
練習は合同なのだから力の差があるとメニューも2つ用意しなくてはならないし、競い合って両方強くなってほしいからだ。力量だけでなく精神面も考慮した。同じポジションのライバル同士を分け、仲良しは原則的には一緒にしたが、なれ合いになっていると感じた者たちの仲はあえて裂いた。
「全員参加」がスクールの精神
接戦で良い試合だったが、負けた方のAからは悔し涙を流す子が出たし、何人かは俺にAの監督もしてほしいと頼んできた。“そうかそうか、かわいいやつめ”といううれしい気持ちを隠しつつ、「物理的に無理な時以外はAの指揮も執るから」と彼らをなだめた。
AとBのライバル心がゆがんだ方向へ行かないように、ミニゲームはわざと混成チームにしている。前回のコラムに書いたジョゼップ・グアルディオラ式のサーキットトレーニングには、固定した「チーム」という概念がない。少人数のグループによる対戦形式のエクササイズはあるのだが、そのグループは前のエクササイズを終えた者から順番に機械的に作っていくから、流動的で毎回顔ぶれが違う。子供の成長ぶりは2試合を終えただけで十分見えたので、グアルディオラに感謝しながら重宝して使っていくつもりだ。
ここまでの3試合を見て、“もし上手な子だけを選抜した1チームだけだったら、優勝できたかもしれないな”と思った。ペナルティーエリアを知らずハンドを犯したGK、オフサイドを知らず、ゴールラインを割る寸前のシュートにちょっかいを出して仲間のゴールを取り消しにする、という珍プレーも出た。遊び以外で試合をするのは生まれて初めて、インサイドでのキックやトラップもままならない子が1チームに2、3人いるのだから無理もない。
だが、「全員参加」がスクールの精神であり、できない子をみんなでカバーするというのが本来の姿なのだろう。親たちの不満は激減したし、私の心の中のわだかまりも消えた。選ぶことは、私にとっても痛みを伴うことだったのだ。今シーズンは親たちのことは忘れ、子供たちに集中した充実したコラムをみなさんにお届けできそうです。