サッカースクールの教育的な意味 スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(9)
親がサボることを奨励!?
ボールは子供を魅了するが、黒板や教科書はそうではない。学習意欲の減退に拍車をかけてしまう親……。教師の苦労は尽きない 【木村浩嗣】
しかも、「夏休みの前倒し」なんてことがスペインでは平気で行われているのだ。6月のこと、翌週が練習最終日、つまり夏休みがスタートというタイミングで、あるお母さんからこんなメールが届いた。
「来週の練習は休みます。うちの子は今週末からお父さんと海に行っていますから」
サッカーは休んでもいい。だが、小学校をサボらせるのは親としてどうなのか?
私は小学校低学年まで学校嫌いだったのだが、泣いて抵抗しても引きずられて学校に連れていかれたものだ。だが、これは別に問題のある家庭の特殊な事例ではない。スペインでは親が率先して子に学校を休ませるのは普通のことなのだ。「海に行くから」「買い物に行くから」「実家に帰るから」などさまざまな理由で、週末や祭日の前後は学校に行かない、練習にも来ない。
スペインには「プエンテ(橋)」と呼ばれる習慣がある。例えば、祭日絡みで金・土・日が3連休だったとすると、木や月を休んで、勝手に4連休や5連休を作る。休みと休みの間に“橋を架ける”ことを指す。
サラマンカ大学の聴講生をしていた時、祭日が近づくと、教授が「君たちは来週の講義は来るつもりかい?」などと答えが分かり切った質問を学生にした。クラスメートたちが「休講に賛成の人は手を挙げて」との問いに応じ、「来週は休講です」などと決を採ることに対して、「子供じゃないないんだから、来たくなけりゃ来るな。多数決に頼るな」と内心は思っていても、大学という怠惰な者が集まる場ゆえに仕方がないことだと諦めていた。だが、大事な義務教育の場で、親がサボることを奨励して“橋を架ける”のは、どうなのか?
学習意欲の低いスペインの小中学生
(1)国民党と社会労働党が政権交代をするたびに教育改革を行ったことで、カリキュラムに一貫性がなくなり、現場が混乱していること
(2)落第者(スペインでは小学生も落第がある)を救済するために生徒への要求レベルを下げたことで、少々休んでも進級できるようになったこと
(3)ここ数年の経済危機によって格差が拡大。「努力しても仕方がない」という投げやりな空気が広がっていること
歴史と地理を教えている前述の友人によると、「1クラス30数人で5人休んでいるのは普通、金曜日の不人気科目となると欠席者10人は下らない」という。試験の日ですら欠席し、後日「家庭の事情で休む」という親の署名付きの届け出を持ってくる子供もいる、というから驚きだ。
学習時間と学習意欲の低下は当然、学力の低下をもたらす。OECD(経済協力開発機構)の『学習到達度調査』(2012年調査)によると、スペインの順位は65カ国中、数学で33位(日本7位)、読解力で31位(日本4位)、科学で29位(日本4位)といずれもOECD加盟国の平均に達していない。