最大の問題を無視するアルゼンチン 認識すべきメンタルケアの重要性

危ぶまれるアルゼンチンのW杯出場

アルゼンチンのW杯出場は徐々に厳しくなっている 【写真:ロイター/アフロ】

 アルゼンチン代表のワールドカップ(W杯)出場が徐々に厳しくなってきている。

 12試合を終えて、アルゼンチンは5勝4分け3敗の5位に沈む。10カ国で争われるW杯南米予選には4.5もの出場枠が与えられている。すでにベネズエラ、ボリビアの敗退が濃厚となっている現状に加えて、2014年のW杯ブラジル大会、15、16年のコパ・アメリカでも決勝進出を果たしているアルゼンチンが予選で苦戦を強いられることなど理解し難いことである。

 選手たちのレベルが不十分なわけではない。

 ただ彼らは14年のW杯以降、3年連続でタイトルを取り逃がしたことで生じた深い挫折経験を引きずっている。さらにリオネル・メッシらの世代にとっては、次のW杯が最後のチャンスとなることも、今予選にかかるプレッシャーを大きくしている。そのため所属クラブでは不可欠な存在として活躍しているセルヒオ・アグエロ、ゴンサロ・イグアイン、アンヘル・ディマリアら世界的なスター選手たちまでもが、W杯出場を義務付けられたアルゼンチン代表で背負う重圧をコントロールし切れずにいるのだ。

最も深刻なのはメンタルだが……

最も深刻な問題はメンタルにあるが、バウサ監督は心理学を信用していない 【写真:ロイター/アフロ】

 アルゼンチンが抱えている問題は1つではないが、現時点で最も深刻なものは間違いなくメンタルである。

 だが、ヘラルド・マルティーノ前監督が去った後も、選手たちのネガティブな思考を改善するメンタルケア専門のスタッフが加わることはなさそうだ。9月以降、6試合のW杯予選を指揮してきたエドガルド・バウサ監督は、そのようなプロフェッショナルの必要性をはっきりと否定している。それだけでなく、彼はあらゆる問題は選手たちとの対話を通して解決できると考えており、現状を打破するために必要なのは良い信頼関係を築くことだと繰り返し主張しているのだ。

 だが、11月10日(現地時間)に行われたブラジルとのスーペルクラシコに0−3と完敗した直後、選手たちの口から発せられた言葉にもアルゼンチンの現状はよく表れていた。

「(前半24分に)ブラジルに先制されるまでは互角だった。でもあの失点で崩壊し、その後は立て直すことができなくなった」と振り返ったのはルーカス・ビリア。イグアインとともに前線で孤立し、ほとんどボールに絡めなかったリオネル・メッシは「このクソみたいな状況を招いたのは自分たちだ」と語り、国民に我慢を呼び掛けた。ハビエル・マスチェラーノは「チームの置かれた状況は悪化する一方だ」と不安を露わにしていた。

 それでもバウサは心理学というものを信用しようとしない。トップレベルの選手を擁し、彼らにふさわしいトップレベルのドクターや練習施設、ホテル、チャーター便といった環境を整えられるようになった今でも、メンタルトレーナーは不在のままだ。唯一の例外である06年のW杯ブラジル大会においても、メンタルトレーナーはチームには同行せず、ビデオチャットでのやりとりにとどまっている。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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