最大の問題を無視するアルゼンチン 認識すべきメンタルケアの重要性

トップアスリートには想像以上の重圧がかかる

1つのミスが大きくクローズアップされる分、トップアスリートには大きな重圧がかかる 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 スペイン代表でフレン・ロペテギ監督をサポートするメンタルトレーナーのフアン・カルロス・アルバレスは先日、トップアスリートもあらゆる人間と同様にプレッシャーを感じるものだと語っていた。彼いわく、むしろ1つのミスが大きくクローズアップされる分、われわれの想像以上に大きな重圧を感じる時もあるのだと言う。

「たとえ高い技術と戦術理解力を備え、チームの戦い方をよく理解し、フィジカルコンディションも万全の状態で試合に臨んだとしても、集中力が散漫だったり、不安を抱えていたり、自分に自信を持てなかったりすれば、試合にうまく入れない可能性がある。そのような状態では、チーム全体を窮地に追い込む重大なミスを犯しかねない」とアルバレスは説明している。

 精神的な問題を抱えているのは選手たちだけではない。負けるたびにパニック状態になる国内の反響を恐れ、極めてリスクを抑えた保守的なシステムを採用してきた近年の代表監督たちもそうだ。

 現チームでメッシが前線で孤立しがちなのは、攻撃の組み立てよりボール奪取を得意とするMFを3人も同時起用しているからだ(ブラジル戦ではビリア、マスチェラーノ、エンソ・ペレスがそれに当たる)。同様の問題はW杯ブラジル大会でも見られた。ボスニア・ヘルツェゴビナを相手に、アレハンドロ・サベーラ監督が5バックで初戦をスタートしたのがいい例だ。

 そうなると前線ではイグアイン、アグエロら主要リーグで活躍する偉大なストライカーたちが1つのポジションを争わなければならず、ピッチでは十分なサポートを得られなくなる。そしてメッシはボールを求めてポジションを下げざるを得ず、攻撃時には相手ゴールまで長い距離を走らされ、多大な消耗を強いられる。それはバルセロナでは、ほとんど見られない光景である。

好調な選手を招集しない指揮官

年内最後のコロンビア戦は3−0の快勝で終えることができたが…… 【写真:ロイター/アフロ】

 問題は他にもある。バウサが所属クラブで出番を失っているセルヒオ・ロメロやマルティン・デミチェリス、けがで4カ月もでピッチを離れていたエセキエル・ラベッシらを招集している一方で、世論が招集を求めているサンロレンソに所属するフェルナンド・ベルスキら好調の選手たちを無視し続けていることだ。

 セルヒオ・バティスタやサベーラ、マルティーノら前任者たちと同様に、バウサにも世代交代に踏み切る度胸はないと見られている。パウロ・ディバラやルーカス・プラット、ガブリエル・メルカド、ヘロニモ・ルッリ、マウロ・イカルディら若い世代は、今のところ招集はされてもベンチ要員にとどまっている。いまだ未招集の選手で言えば、セビージャのフランコ・バスケスもいる。

 1ゴール2アシストと孤軍奮闘したメッシの活躍により、年内最後のコロンビア戦は3−0の快勝で終えることができた。とはいえ、バウサの続投が保証されたわけではない。次戦まで4カ月の猶予があるこのタイミングで、アルゼンチンフットボール協会(AFA)がホルヘ・サンパオリの招へいに再び動くとのうわさもある。そもそも、現在FIFA(国際サッカー連盟)の介入を受けているAFAは3月に会長選挙を行う予定であり、新会長が別の監督を連れてくる可能性もある。

 そうした移行期のゴタゴタもストレスの一因となっているはずなのだが、いつまでAFAはメンタルケアの必要性を無視し続けるつもりなのだろうか。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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