ピッチ内外で問題だらけのアルゼンチン W杯予選敗退が現実味を帯び始める

10月の連戦で勝ち点1しか確保できず

10月の連戦で、アルゼンチンは勝ち点1しか獲得できなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 2010年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会がそうであったように、リオネル・メッシを筆頭に世界中のビッグクラブが熱視線を注ぐスター選手を多数擁するアルゼンチン代表が、W杯予選で敗退する可能性が現実味を帯び始めている。仮にそうなったとして、それはもはや多くの識者にとって大きなサプライズではなくなってさえいる。

 10月のW杯予選にて、アルゼンチンは南米のライバルの中では“弱者”とされる2チームから勝ち点1しか確保することができなかった(アウェーでペルーと2−2の引き分け、ホームのパラグアイ戦は0−1で敗戦)。8試合を残した現在の順位は4勝2敗4分けの勝ち点16で10チーム中5位。つまり現時点では大陸間プレーオフに回ることしかできない位置にいる。しかもすぐ下にはパラグアイが勝ち点1、チリが同2差でつけている。

 すでにペルー、ボリビア(ともに勝ち点8)、ベネズエラ(勝ち点2)の3チームがほぼ脱落している現在、18年のW杯ロシア大会の出場権争いは残る7チームで5つの枠を争う状況と言える。その中でも、勝ち点21の首位ブラジルと同20で2位のウルグアイは頭一つ抜けている。

安定のウルグアイ、調子を上げたブラジル

 最も安定しているチームはウルグアイだ。内容的に良いプレーができていない試合は多いが、経験豊富な守備陣とエディンソン・カバーニ、ルイス・スアレスの2トップを生かした攻撃により、スタートから常に上位をキープしてきた。

 一方、スタートでつまずいたブラジルはドゥンガが監督が復帰した当初から常に懐疑的な目で見られてきた。だがアルゼンチンと同じくコパ・アメリカ後に監督を代え、多くのファンから待望されていた人気者のチッチが後任に就任。以降はリオデジャネイロ五輪で実現した同国史上初の金メダル獲得がもたらしたポジティブな流れを生かし、失っていた自信と流れるようなプレーを取り戻した。

 その間にはリーダーとしてチームを引っ張るネイマール以外にも、レナト・アウグストやフィリペ・コウチーニョ、若きストライカーのガブリエル・ジェススらが新たな中心選手として台頭してきている。

混乱をもたらしている正常化委員会

 対照的に、アルゼンチンは選手個々もチームも協会も、全てがそれぞれの危機に瀕している。

 中でも最も深刻であり、その他の問題の元凶にもなっているアルゼンチンフットボール協会(AFA)は、完全に方向性を見失った状態にある。現在AFAはFIFA(国際サッカー連盟)の介入を受け、外部から送り込まれた4人の人物で構成される正常化委員会が実質的な運営を代行している。だが、この委員会が適切な決断を下しておらず、選手たちを大いに混乱させているのだ。

 例えば同委員会は各年代のユース代表監督の選考に手間取った末、ラシン・クラブのリザーブチームの監督を務めていたクラウディオ・ウベダをU−20代表監督に任命したが、元々彼は委員会が作った候補リストにも入っていなかった。

 しかも監督が決まったのはU−20W杯への出場権が懸かった南米選手権が始まるわずか3カ月前のことだった。アルゼンチン代表の重鎮の1人であるハビエル・マスチェラーノは以前、03年に自身がユース代表に呼ばれた際、南米選手権へ向けた準備は2年間かけて行われていたと言っていただけに、これは異常事態である。

 こうした混乱をもたらしている正常化委員会は、17年の6月30日にAFAの役員選挙を行うことを約束している。言い換えれば、この混乱がそれまでは続くわけだ。このような状況を選手たちが快く思っているはずがなく、すでにコパ・アメリカ・センテナリオの開催中からツイッターなどを通して不満の声が挙がっていた。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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