美しい少年サッカー、裏ではびこる悪習 スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(11)

木村浩嗣

カタルーニャ州の地域リーグの15、16歳世代の試合で八百長の疑いがある、と『エル・パイス』紙で告発記事が掲載された(写真はイメージ) 【写真:アフロ】

 スペインのクオリティーペーパー『エル・パイス』紙に1週間ほど前、こんな告発記事が出ていた。

 昨年5月、カタルーニャ州の地域リーグにおける15、16歳世代の最終節の試合に八百長の疑いがある、と。引き分けに終われば一方は優勝、もう一方は昇格という状況で、両チームはまったく攻めないままスコアレスドローで試合を終え、“無事目的を達成した”らしい。

 観戦していた少年たちの親の1人が調べたところ、大人たち(クラブ会長や監督)は断固否定したものの、少年たちからは、監督から攻めるなという指示があったこと、引き分け狙いと聞いて怒ってプレーを拒否した選手がいたといった証言が得られた。

 この記事の表題は「汚職の種」であった。

 スペインで横行する汚職の種が健全であるべき少年サッカーの世界にすでに植え付けられている、という主張だ。この記事を読んだ私の感想は「あるだろうな」だった。

 調査に乗り出した親はカナダ人の弁護士だったが、スペイン人だったら「よくあること」「騒ぐほどではない」で済ませていたと思う。実際、他のスペイン人の親たちは、こうしたコメントで同情や共感は示したものの、それ以上のアクションは起こさなかったという。「カナダだったら大変なスキャンダル」とその親は憤っていたが、私からすると、あっても全然不思議ではない。

疑惑の試合は枚挙にいとまがない

04年ユーロのデンマーク対スウェーデン(写真)など、両者仲良く“目的を達成した”試合は数多くある 【写真:ロイター/アフロ】

 大人が悪い見本なのである。

 引き分けなど特定のスコアで勝ち抜きが決まるなどの両者に得がある状況で、そのスコアになった途端、まったく攻めるのを止めて、両者仲良く“目的を達成した”なんて試合は、スペインに限らずいっぱいある(八百長と断定されているわけではない)。有名なところでは、1982年ワールドカップの西ドイツ対オーストリア(1−0)、2010年アフリカネーションズカップのアンゴラ対アルジェリア(0−0)、自分が見た試合では04年ユーロ(欧州選手権)のデンマーク対スウェーデン(2−2)……。

 リーガ・エスパニョーラでは前日本代表監督のハビエル・アギーレが巻き込まれた八百長疑惑など、残留争いをめぐる疑惑の試合が毎年のようにある。記憶に新しいところでは、昨季の最終節スポルティング・ヒホン対ビジャレアル(2−0)で「スポルティングに降格してほしくない」と言っていたビジャレアルのマルセリーノ・ガルシア・トラル監督が主力を休ませ、スポルティングが残留を達成した試合(マルセリーノはこの疑惑などが原因でその後、解任された)……。

 私は八百長を申し込まれたことはないが、インチキが横行していることは知っている。

 私の所属しているセビージャ市主催のスクール同士のリーグという、昇格も残留もない、お金が一銭も動かないコンペティションですらそうなのだ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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