清武に見るサッカーインテリジェンス スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(10)

木村浩嗣

静かなセンセーションを起こしている清武

8月20日のエスパニョル戦で1ゴール1アシストの活躍を見せた清武。監督とチームメートにとって欠くことのできない選手となっている 【写真:ロイター/アフロ】

 私の地元セビージャに来た清武弘嗣が静かなセンセーションを起こしている。

「静かな」というのは派手な個人技で大向こうを沸かしてはいないが、渋くて重要なチームプレーで通をうならせているという意味だ。分かる人には分かる活躍ぶりで、その理解者の中には監督のホルヘ・サンパオリも含まれているはずだ。少年チームの監督という立場からしても、あんな子がいたら絶対にチームから外さないと思う。

 その良さを一言で言うと、「サッカーインテリジェンスのある選手」ということになる。普通の賢さではなく、サッカー的に賢い、という意味だ。サッカー的に賢い選手とは、瞬間、瞬間にやるべきことを正しく判断し、正しく実行できる選手のことを指す。誰にとっての正しさか? チームにとっての正しさである。

 清武のプレーぶりを見ていると、チームメートが求めることをきちんと汲み取り、最もふさわしいプレーをすることで、仲間に感謝され監督にも信頼される、という好循環が透けて見える。

“なんでそんなことをするんだ?”という判断ミスがなく、しかも日本人らしく献身的で継続的で、ラテン系選手にありがちなムラがない。8月20日(現地時間)に行われた開幕節のエスパニョル戦では、4失点目の原因となる致命的なバックパスのミス(判断のミスではなく実行のミス)を犯したが、その後も消えることなく、むしろ、より積極的にボールをもらいにいっていた。ボールを触る場面だけでなく、プレスやマーク、インターセプトというボールを持たない場面でも極めて忠実なプレーをする。

インテリジェンスの高い選手はボランチが多い

 他のチームでは、インテリジェンスの高い選手というのはボランチの位置にいる。

 例えばレアル・マドリーではルカ・モドリッチ、バルセロナではセルヒオ・ブスケツという具合に。本来トップ下タイプの清武はセビージャでは右のインサイドを任されている。このチームのボランチはスティーブン・ヌゾンジだが、彼はドリブルで突っかけてボールロストするなど、“なんでそんなことをするんだ!”という類のアナーキーなプレーをする悪い癖がある。よって、清武が攻守のバランサーを任されているわけなのだが、右インサイドの選手が攻守の要というのはセビージャが極めて攻撃的であることの証明でもある。攻撃に偏重しているからバランサーの位置も前掛かりになっているわけだ。

 もちろん清武はプロであり、子供のレベル、特に私のような街のスクールレベルでは、彼ほどインテリジェンスの高い選手とは出会えない。それでも30人いれば1人か2人は賢い選手がいるものだ。

 さっき、普通の賢さとサッカー的な賢さは違うと書いたが、サッカー的に突出した選手がいない少年サッカーのレベルでは、ほぼ同一と考えて良い。こちらの言うことをよく理解し、監督の求めることをやってくれる子は、学校でもお勉強がよくできているだろう、と思う。さっき言ったことをすぐ忘れ、説明してもチンプンカンプンという子は、やっぱりお勉強も駄目なんだろうな、と想像する。本人や親にそれとなく聞いてみると、やはりそうなのだ。清武は子供時代、たぶん学校の成績も良かったんじゃないかな。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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