清武に見るサッカーインテリジェンス スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(10)

木村浩嗣

少年サッカーのチームは3種類のタイプのミックス

7月5日の加入会見での清武。スペイン語には苦労している模様。もし言葉ができ、内気でもなければキャプテンにもなれると思う 【木村浩嗣】

 さて、ここに第3のタイプ、理解力もありこちらの話も分かっているのだが、言うことを聞かないという子たちがいる。つまり、賢いがずる賢いという連中で、自分にとって不要だと判断すれば手を抜いたり指示を無視したりする。これはスペインの子たちには一定の数がいる。

 彼らはムラッけがあり、やればできるのにやらない。総じて利己的でチームや仲間のことはあまり考えない。子供だから利己的で当たり前なのだが、それがサッカーの上達を阻んでいる。

 彼らがお勉強が得意かどうかは本人の気分次第だから一概に言えない。できない者の方が多いだろう。勉強とは、頭の良さだけでなく、努力や忍耐力、規律を要求するもので、そこが欠けているからだ。

 少年サッカーのチームというのは、この3種類の子たちのミックスでできている。

 インテリジェンスのある子がサッカーもうまくてリーダーシップもあるなら、彼をキャプテンに据える(頭が良いのが女子という場合がしばしばあるが、男子に囲まれているだけで本人にはプレッシャーなので、なかなかキャプテンにはしづらい)。ポジションは後ろからチーム全体を見渡せるDFかセントラルMFのような攻守の要が最適だ。

 次に、インテリジェンスには欠けるが、ボール扱いの技術やドリブル、シュート力に突出している子を、飛び道具的にFWやアタッカーに据える。どういうわけか、個人技がずば抜けている選手はこういう子たちに多い。周りもなかなか見えないので、単独で打開できるポジションが向いている。逆に、彼らを判断ミスが命取りになりがちなDFには単独ではなかなか置きにくい。うちはセンターバックが2枚なので、どちらか1人に忠実なインテリジェンスの高い選手を置き、もう1人のそうじゃない選手と組み合わせることもある。

 そうして最後に、ずる賢い子を適当に散らばらせる。ずる賢さは精神的なタフさだったりする。こっちの指示を話半分で聞けるのは、逆境でも重圧に負けないという意味だったりするのだ。お勉強では集中しない彼らもサッカーでは必死。とんでもない力を発揮するかもしれないし、消えてしまうかもしれないのだが……。

サッカー的な賢さとは何か?

 ところで、「天才」と呼ばれる選手、例えばメッシはインテリジェンスのある選手だろうか?

 清武をサッカーインテリジェンスのある選手と判断する同じ基準では、メッシを「インテリジェンスがある」とは言えないと思う。メッシのプレーはサッカーインテリジェンスの有無という議論を突き抜けている。正しいプレーができるのではなく、彼のするプレーが正しいのであり、チームが求めるプレーをするのではなく、彼のプレーをチームが必要としているのだ。つまり、個とチームの上下関係が清武の場合とは真逆。メッシの場合は、メッシが上でチームが下なのだ。

 その絶対的な存在であるメッシが、お勉強が駄目だったというのは有名な話である。本を一冊読み通したことがなく、大好きなマラドーナの本ですら途中で飽きて投げ出した、という。

 賢さとは何か? サッカー的な賢さとは何か? サッカーがうまいとはどういうことなのか? 天才とは何なのか? プロ選手や子供たちを前にして今季も考えさせられることになりそうだ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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