広島逆襲Vへ、キーマンは「4番・新井」 ひたむきな38歳が盛り上げる

ベースボール・タイムズ

カープ不動の4番に君臨する新井。成績もさることながら、その存在がチームに好影響をもたらしている 【写真は共同】

「4番、ファースト、新井」

 まさかの復帰から半年。試合前のスタメン発表で、今ではもう、日常的なものとなった。今季、阪神から8年ぶりに復帰した新井貴浩が、広島の4番打者として存在感を見せている。
 7月13日現在で、打率2割9分5厘、4本塁打、41打点。本塁打の数こそ物足りないが、打率、打点はともにチームトップで、リーグ内でも打率が5位、打点は6位タイ。そして新井は、その数字以上のものを、チームにもたらしている。

当初はファンも冷ややかだった古巣復帰

 広島ファンの誰もが大歓迎した黒田博樹とは対照的に、新井の古巣復帰に対する周囲の反応は正直、冷ややかなものだった。8年前のFA移籍の経緯や移籍先など、さまざまな要因はあるが、一番の問題は昨年の成績だろう。ヤンキースで12勝を挙げた黒田に対し、新井は94試合の出場で打率2割4分4厘、31打点、本塁打はわずかに3本。外国人選手の活躍などで出場機会が激減し、ライバルチームをなかば戦力外のような立場となった上での古巣復帰。年俸の大幅ダウンもさることながら、“落ち目”の38歳に大きな期待をかけるのは酷、というのが正直なところだった。

 そんな状況でも広島球団は、新井にとって「もう一度、勝負できる環境」であり、「初心に帰る」場所だった。本人の言葉通り、新井はキャンプ前の合同自主トレから精力的に汗を流した。そして春季キャンプでは早出特守に参加するなど、自らを徹底的に鍛え直した。若手選手とともに息を切らし、以前とはすっかり顔ぶれの変わったチームにもすぐに溶け込んだ。シート打撃で黒田との“直接対決”が実現した際には、多くの選手が練習中にもかかわらず見学の列を作り、若手が多いチームの中で文字通りの「お手本」となった。

4番固定で打線も息を吹き返す

 オープン戦でも順調な仕上がりを見せた新井は、エルドレッドの故障も相まって、打線のキーマンとして名前が挙がるほどの存在となった。開幕まで1週間余りとなった時期に、右肘関節炎を発症して開幕スタメンこそ逃したが、その開幕・東京ヤクルト戦(マツダスタジアム)の7回に、前田健太の代打として登場すると、スタンドからはその日一番の大歓声が沸き起こった。キャンプから見せ続けていた新井のひたむきな姿に、当初は冷ややかだったファンの反応が日に日に変わっていった。

 さらに4月7日の巨人戦(マツダスタジアム)に「4番・ファースト」で復帰後初のスタメン出場。その後、新井が4番に固定されることで、開幕から極度の不振に陥った打線は、徐々に息を吹き返す。

 そして、ゴールデンウイークに地元で行われた巨人との3連戦だ。5月4日の第1戦、2回にチーム初ヒットを放つと、0対1で迎えた6回に同点のタイムリー二塁打を放ってサヨナラ勝ちに貢献。続く5日の第2戦では、本人が「記憶にない」という1イニング2本のタイムリーを放ち、計3安打5打点の大暴れ。復帰後初めてマツダスタジアムのお立ち台に立つと、ファンの「おかえりなさい」の大合唱に、「夢みたいです。最高です」と笑顔で応えた。さらに6日の第3戦でもタイムリーを含む2安打をマーク。これ以上ない舞台で、「4番・新井」が最高の働きを見せた。

 4番が固まったことで、広島打線は5月にチーム打率2割8分5厘、29本塁打、131得点を記録し、3・4月の同2割3分7厘、7本塁打、69得点を大きく上回った。新井本人も、5月の月間成績は打率3割6分3厘、2本塁打、20打点と、打率、打点でチームトップを記録。途中に左手中指脱臼というアクシデントで数試合に欠場し、その後も完治しないままの復帰となった中で、この数字は見事と言うしかない。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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