MLBポストシーズンレポート2024

大谷翔平のスイングが明らかに強く、速く――敗戦の中に見えた光明【WS第4戦】

丹羽政善

10月29日(現地時間)に行われた、ドジャースとヤンキースによるWS(ワールドシリーズ)第4戦。ドジャースは初回、フレディ・フリーマンの2ランで先制するも、投手陣がヤンキース打線を止められず、11対4と大敗した 【Photo by Daniel Shirey/MLB Photos via Getty Images】

 五回、2点差とし、なおも無死一塁で打席に入った大谷翔平(ドジャース)は、代わった左腕のティム・ヒル(ヤンキース)の初球を捉えて、打球をセンターへ。10月26日(現地時間、以下同)に左肩を亜脱臼してから、初安打を放った。スイングは明らかに自然になっており、インパクトで左手を離すこともあったが、大谷の肩のことを知らない人が見れば、もはや違和感を覚えることはないのではないか。
 
 よって2点を追う七回、1死一塁で打席に立つと、ドジャースファンは期待を、ヤンキースファンはじわりと手に汗をかいたはず。

 ところが結果は――。

 一塁走者のトミー・エドマンが二盗を決めて、1死二塁。単打で1点差という場面だったが、ここで大谷は、外角低めのスプリットを振って空振り三振。続くムーキー・ベッツも三振に倒れると、敗色ムードが漂った。実際、八回に5点を追加され、試合が決まっている。

ブルペンゲームの脆さ

初回、4試合連続となる本塁打を放った、ドジャースのフレディ・フリーマン 【Photo by Elsa/Getty Images】

 先制したのはドジャース。フレディ・フリーマンの4試合連続となる本塁打で0対2とした。フリーマンは2021年のブレーブス時代にWS(ワールドシリーズ)制覇を経験しているが、あのときの第5戦から数えて6試合連続本塁打となり、それはメジャー記録となった。

 その瞬間、当然ながらドジャースのダグアウトは盛り上がり、デイブ・ロバーツ監督は「すごい興奮状態だった」と振り返ったが、長く続かなかった。ヤンキースが二回に1点を返し、三回は2死満塁の場面でアンソニー・ボルぺが満塁本塁打を放って逆転。そこでつけられた差を最後まで詰められなかった。

 ブルペンゲームはリードを許すと脆い。負けている段階で、僅差の勝ちゲームで登板するリリーフ投手を注ぎ込むことは、彼らが翌日に投げられなくなるリスクをはらむからだ。五回を終えて1点差。まだ試合はわからなかったが、あそこではまだ動けなかった。そのジレンマが敗戦に繋がった。

 ただ、そんな敗戦の中にも、ポジティブな要素が。すでに触れたが、大谷のスイングが明らかに強くなっているのである。

  29日の試合。第1打席のショートフライは83.0マイルというスイングスピードを記録。ほぼフルスイングだった。

 大谷の平均値は、昨年が77.4マイル。今年が76.3マイルだが、まずは、前日の全スイングの数値を紹介すると、以下の通りだ。

WS第3戦(10月28日)のスイングスピード 平均:75.6(単位はマイル) 
三回(2打席目)
4球目(空振り)78.4
5球目(二塁ゴロ)79.3

五回(3打席目)
1球目(ファール)82.0
6球目(ファール)73.3
7球目(空振り三振)72.2

七回(4打席目)
2球目(空振り)67.3
4球目(ファール)75.1
5球目(ファール)76.0
6球目(三邪飛)77.3

29日は以下の通りだった。

WS第4戦(10月29日)のスイングスピード 平均:79.2 
一回(1打席目)
1球目(ファール)79.7
4球目(空振り) 79.9
6球目(遊飛) 83.0

三回(2打席目)
2球目(中飛)76.9

五回(3打席目)
1球目(中前安打)78.2

七回(4打席目)
2球目(空振り)77.5
6球目(ファール)79.1
7球目(空振り三振)エラー

五回、左肩負傷後、初となる安打をマークした大谷翔平。WS第4戦は4打数1安打だった 【Photo by Daniel Shirey/MLB Photos via Getty Images】

 これだけ振れれば、あとはタイミング次第か。ロバーツ監督も、「スイングは悪くない」と話している。ただ、この試合に関しては、ボール球を追いかけていると彼の目に映ったようで、試合後の会見でもそのことを指摘したが、実際は9球中、ボールを振ったのは2球だけ。決して悪くない。ただ、七回の三振はボール球。その印象が強かったのかもしれない。

 ロバーツ監督は「四球を選べる場面もあった」と話したが、1死一、二塁でベッツ、フリーマンという可能性もあっただけに、2点差ならまだわからなかった、との思いが透けた。

 とはいえ、これだけ振れるようになったこと自体、驚き。本人もかなり回復に自信を深めたのではないか。明日からがまた、楽しみになった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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