安田で花咲くフラワーパークの子=乗峯栄一の「競馬巴投げ!第99回」

乗峯栄一

もしオスが「YY」という“超オス”

[写真3]昨年金杯以来勝ち鞍がないエキストラエンドだが、角居厩舎流サプライズがあるかも 【写真:乗峯栄一】

 そういうことで、海洋試験場では「トラフグをオスだらけにしたい」と躍起になっている。

 ちょこっと勉強した。人間でもフグでもそうだが、性染色体「XX」がメスで、「XY」がオスである。人間でいえば、ほかの22対の染色体はすべて同じものがペアで存在する(全部で44本)が、ただ性染色体に関しては女がペア(XX)なのに対して、男はペアじゃない(XY)。これが平均的に女の方が男より長生きする原因だという人もいる。

 XX(メス) とXY(オス) が交配すれば、XX(メス)とXY(オス)が出来る確率は五分五分だ。でももしオスが「YY」(自然界には存在しない)という “超オス” なら、出来る子供はXYばかりだから全部オスになると考え、それを長崎の水産試験場で実験成功させたらしい。

 元々のXYのオスから精巣細胞を取り出し、トラフグより成長が早いクサフグ(トラフグの5分の1ぐらいの大きさだ。写真見ると可哀想になる) のメスの稚魚に移植したら、このメスの卵子が、卵子なのにXY(オスの性染色体)になったらしい。このクサフグのメスとXYのトラフグのオスを交配させると (つまりオス同士が交配しているということだ)YYの“超オス”と呼ばれるトラフグのオスが4分の1の確率で出てくる。このYYの超オスとXXの通常メス・トラフグを交配させれば、必ずXYのオスが生まれる。つまりオス同士で生殖すれば、出来る子供は超オス(4分の1)通常オス(2分の1)通常メス(4分の1)になるので、その4分の1の超オス(YY)を利用するということだ。

「オスだらけのトラフグ世界」って?

[写真4]ブレイズアトレイルは繰り上がり出走の幸運を生かしたい 【写真:乗峯栄一】

 でもこんな事していいのかとも思う。「オスのフグばっかり生まれる」って自然の摂理に反してないか? それにYYは“超オス”と呼ばれるが、XXは“ごく普通にいる女性”だ。これも不公平じゃないか? ひょっとしたら我々“生半可オス(XY)”が追いかけているのは“超メス(XX)”なのかもしれない。それなら、太刀打ち出来ないのは当たり前だが。

 この「超オス」の話を競走馬生産牧場の人にすると「もしオスばかり生まれれば生産牧場主は喜ぶ。牧場ではメスが生まれると溜息が出る」と言う。セリ中継を見ても、値段が高いのはオス馬だから、これはよく分かる。でも次に肉牛牧場主に話すと「そんなことになれば我々は溜息だ。メスが生まれると、人工授精(牛牧場では人工授精は必須だ)でどんどん増やせるが、オス牛だと、ごくごく少数の種牛を除いて子孫繁栄はないから」と言う。これも「なるほど」と思う。乳牛牧場主なら、なおさら“メスが欲しい”というところだろう。

 しかし養鶏場と真逆の「オスだらけのトラフグ世界」ってどうなんだろうか。フグの白子が安くなるのは嬉しいが。

橋口調教師「食べたいものを何でも頼みなさい」

[写真5]橋口勢2頭のうちの1頭レッドアリオン、マイラーズCの勢いをここでも 【写真:乗峯栄一】

 そうなのだ。ぼくがトラフグ白子に異常に興味を持つのは、人生で二度しか食べたことがないからでもある。ずっと食べたかったのだが、高くて手が出なかった。

 わが“白子遭遇”は二度とも橋口弘次郎調教師のGI祝いだった。ハーツクライの有馬記念とローズキングダムのJCと、二度ともちょうどフグのうまいシーズンに重なり、橋口調教師と特に親しい講談師の旭堂南鷹(きょくどう・なんおう、長年の知り合いだ)くんが「ぼくはですねえ、橋口先生の北新地フグ食事会に呼ばれてるんです」などと言うものだから「クッソー、ついでに乗峯も呼ばれるという可能性はないのか」と襟首つかんで鋭く追求したわけである。

「呼ばれる可能性なきにしもあらず」と講談師は苦し紛れの返事をしてきた。

 でも呼ばれたら、そこはそれ、酒も入っているし、何だかこっちのもののような気がしてくる。

「白子の醤油焼きというのがあるんですが、これ、ぼく、人生で一度も食べたことがないんです」とほとんど涙声で言うと、橋口調教師「食べたいものを何でも頼みなさい」と、ほんとにさりげない口調で言う。

 メニュー帳をひっくり返しながら「あれ? メニューに値段が書かれてないんですけど」と言うと「いくらでも構わない」とまた静かな返事が返ってくる。「あ、こっちに白子の塩焼きというのもあって、これもおいしそうだなあ」と言うと(さすがに南鷹くんは睨んできたが)「じゃあそれも頼みなさい、白子の醤油焼きと塩焼きを全員(その場には10人ぐらいいた)に」と、この同じ事象がハーツ有馬とローズJCの二回あった。

「白子の醤油焼き」「白子の塩焼き」の二品が二度だ。

 微妙な話だが、今回、性染色体の分裂融合を勉強してみると、これがキーワードとして出てくることが分かった。生殖細胞はそのまま融合したら23対と23対で、46対の巨大染色体の人間が出来てしまう。そこで男と女の生殖細胞が、それぞれ一度二つに分かれて、出来た半数のもの四つのうちの二つが融合するという「減数分裂」をやる。つまり減数分裂とは「二品が二度」なのだ(と思う)。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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