JPBLの理想と現実と未来 川淵チェアマン独占インタビュー<前編>

大島和人

「スポーツの発展には横串が絶対に必要」

スポーツ界の発展を望み「これをきっかけに、人材も含めていろいろな競技団体の交流が始まればいい」と話した川淵チェアマン 【スポーツナビ】

――Jリーグの理念には“サッカー文化”ではなく“スポーツ文化の振興”という言葉が出てきます。競技の垣根を超えて協力し合うことの意義をどうお考えですか?

 日本はスポーツに限らず、あらゆる組織が割合に縦割りだけど、スポーツ界は極端な縦割り社会だよね。日本のスポーツを発展させていくためには、横串が絶対に必要だと思っている。日本サッカー協会(JFA)とJリーグが、バスケットボール界の発展のために人を出して、支えていこうというのは、スポーツ界全体にインパクトを与えること。その理念にあるように、スポーツ界全体の発展のためにJリーグのクラブは存在している。大仁(邦彌・JFA)会長と村井(満・Jリーグ)チェアマンは、そういう姿勢から言っても協力するのが当たり前だと思ってくれたわけだよね。

――横串が必要だと思ったのは今回でなく、以前からの問題意識ですか?

 Jリーグが始まる頃から“サッカーだけではなく”と、ずっと言ってきている。(初代Jリーグチェアマンとして)「スポーツを愛する多くのファンの皆様に支えられまして、Jリーグは今日ここに大きな夢の実現に向けてその第一歩を踏み出します」と、僕は1993年5月15日のJリーグ開幕戦であいさつしたけれど、サッカーだけだったら“サッカーを愛する”と言っていたわけでしょう。その時代からずっと思っていることで、今に始まった話ではないよね。

 こういうことがきっかけになって、人材も含めていろいろな競技団体の交流が始まればいいと思う。それが刺激になるから。バスケットボール協会に限らず、日本の競技団体は結構ガバナンスがダメなところが多い。自画自賛しているわけじゃなくて、これはスポーツ界全体にとってエポックメイキングなことだと思うよ。

――究極の理想は日本でもバルセロナやバイエルン・ミュンヘンのような総合型スポーツクラブが登場することだと思います。そこはいかがですか?

 今度も柏レイソルに、「日立(サンロッカーズ東京)と一緒に会社を作ってやってくれよ」と、村井チェアマンを通して言ってもらったんだよ。でも日立は分社化して、一緒にならないみたい。川崎で活動している東芝も、川崎フロンターレで活躍している武田(信平)社長に「何とか一緒になれないの」と。本当に(等々力陸上競技場と川崎市とどろきアリーナは)すぐそばだから。

 川崎市は僕が5千人以上のアリーナじゃないとダメだと言ったら、すぐ東芝に「整備しますよ」と言って来たんだって。こんな願ってもない話はないじゃないかと。だからフロンターレの武田社長に「一緒になれないの?」と言ったら、「こちらは富士通で、向こうは東芝なので」って(笑)。「川崎フロンターレ東芝でいいんじゃない」と思うんだけれど。でも(富士通は)女子がバスケットボールチームを持っているんだよ。そういうのも、もうちょっとフレキシブルに考えてほしいなと僕は思っているんだけれどね。当事者としては、そうは簡単にいかないでしょうけど。

 でもFC東京なんて、バレーボールのプレミアリーグに参加している。FC東京のサポーターがバレーボールの応援に行くと、サッカーの応援をするので相手が戸惑うと聞いて笑っちゃったけれど(笑)。ただ(サッカーと一体になれば)ファンが増えていくのは間違いない。東芝なんて絶対いいのになと思うんだけどね。名前が一緒になれば、お互いにとって良いことだと思うけれど、そこまで行っていないのは残念だね。でも、いずれそこへ行き着くでしょう。

――競技を超えた経営、ブランドの一体化のために、現状で壁になっていることは何だと思いますか?

 クラブとして自立して、収入が潤沢になって、そういうところに予算が向けられるとか、そういう余裕が必要だと思っているからじゃないの。

「大河が優秀な人材であることは僕が一番よく知っている」

――現在Jリーグの常務理事を務めている大河正明氏が、JBAの新事務総長に内定しました。

 僕がJリーグのチェアマン時代(95年)に総務部長で出向して来てもらって、2年間一緒にやっているんだよ。そこから三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)でも支店長になり、偉くなりそうなのを辞めて(10年に)Jリーグへ来ているんだ。優秀な人材であることは僕が一番よく知っている。今、彼は(Jリーグの)常務理事で、総務系統の話を一手に掌握していて、いろいろな企画立案をやっている。彼がいなくなるというのは、Jリーグにとってはすごく痛手ですよ。だけど僕が「どうしてもお願いしたい」と言ったら、村井チェアマンは快く、「バスケットボール界の発展のために協力しましょう」ということを言ってくれた。

 僕は1月の後半くらいから、血圧がすごく上がっていたんだよ。寝ても覚めてもバスケットボールのことを考えている状態で、朝3時くらいに目が覚めて、血圧が下100、上200くらいになったんだよね。普段は大体80前後〜130か140という正常な値だけど、チェアマンを引き受けてから血圧が高くなった。ぶっ倒れるかなと思って、女房も辞めてほしいと言っていたくらい。その状況を僕が大河常務理事と会って話をして、彼は本当に僕の命が危ないと思ってくれたみたいなんだよね。彼が引き受けてくれると決まったら、血圧も一気に正常に戻った(笑)。

――大河氏のどういう能力に期待されていますか?

 ガバナンスということにおいては、修正しなければならないことがたくさんある。定款その他の部分も、いろいろなことが抜けているね。でも彼はそういうこと全てに長けている。バスケットボール界としては、すごくラッキーだった。だけど、バスケットボールがサッカーに乗っ取られるような言い方をした人がいたのには笑っちゃったね。

 それにしても、何で(資格停止処分が下される前に)やってこなかったんだと。何を言っているんだと思うね。いろいろな人が自薦他薦で僕に会いに来て、いろいろな話をされるけれど、もう笑わすなってことだよ。

――川淵キャプテンに「自分を」という売込みが来るんですか?

 そういうのがいたから、こうなってるんじゃないの? いなかったら、こんなになってないよ。諸悪の根源はそういうところでしょう。派閥争い、学閥争い……。そういう足の引っ張り合いばかりやっていたからこうなったんで、FIBAは時の氏神だね。バスケットボール協会を、根本的に変えなければいけないと思ってくれただけでもありがたい。僕はFIBAが無茶なことを言っている、世界をかさに着て無理を押し通そうとしているとは一切思わないね。FIBAが言うことは至極真っ当だよ。

<後編へ続く>

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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