小林祐希が示したコミュニケーション力 ハーフタイムの話し合いでチームを修正

中田徹

前半を終わって0−1とリードを許す

小林祐希が行ったハーフタイムの話し合いとは? 【VI-Images via Getty Images】

 エクセルシオールは、いわゆる「ヨーヨークラブ」だ。年間予算はおよそ600万ユーロ(約7億3000万円)にすぎない小クラブなので、オランダ1部リーグに残り続けるのは難しい。だが、それほど長い期間をおかずに、しっかりと昇格してくるあたりは伝統というものか。今季は守備の整備からシーズンに入り、最近は俊足の3トップが威力を発揮し始めている。ここ2節はフィテッセに2−2、AZに3−3と、上位チーム相手にスペクタクルなゲームを演じ、第15節を終えて12位と健闘している。

 現地時間12月10日の第16節、ヘーレンフェーン戦の前半はエクセルシオールのペースで試合が進み、彼らがナイジェル・ハッセルバインクのPKで先制ゴールを奪って1点リードして試合を折り返した。一方、オランダリーグ4位のヘーレンフェーンは中盤が機能せず、試合を作れぬままハーフタイムに入った。

 セントラルMFのスタイン・スハールスと攻撃的MFのペレ・ファン・アメルスフォールトをつなぐ役割を任されている小林祐希も、チームと同様に前半のパフォーマンスは冴えなかった。37分にボールを受けてターンした瞬間、背後に付いていたマーカーにボールを奪われた際には、小林に対して珍しくホームのサポーターからため息がもれたほどだった。彼は前半の自身の出来を、「前半、自分としてもちょっとイージーミスが多かった。そんなに気にはしていなかったけれど、それもチームのリズムを崩している原因になってしまった」と振り返る。

小林が行ったハーフタイムの修正とは?

 しかし、後半に入ると、ヘーレンフェーンも小林もしっかり修正し、サム・ラーションの2ゴールで2−1の逆転勝利を収めた。ハーフタイムに小林は味方と話して修正をかけたという。

 まずはスハールスとの話し合いがあった。この日はインターナショナルマッチウイークに行われたオランダ対ベルギー戦で負傷退場したスハールスが、復帰後初めて試合に加わった。小林は「前半のスタインはちょっと前に行き過ぎていた」と言う。小林の戦術解説は非常に分かりやすいので、そのまま記載する。

「(前半は)思ったよりスタイン(スハールス)が前へガンガン行っちゃうから、後ろで(ヘーレンフェーンの)センターバック2人と、相手の2トップが2対2になっていた。(それで)ボールを回せなくて、ロングボールを蹴って、セカンド(ボール)を拾われてカウンターという繰り返しだった。

 もうちょっとスタインに下がってほしかったというのが1つ。そうすれば、真ん中のスペースが空くからサム(ラーション、左ウイング)、アルバ(ゼネリ、右ウイング)が入ってきた時にスペースがあったんだけれど、元々(そこに)スタインが立ってしまっていた。そのことは後半、スタインに『俺ら、ちょっと低めに(ポジションを)取って(中のスペースを)空けよう』と言った」

 次に、自分へのパス出しのタイミングについて、チームメートへ要求したという。

「俺が動いてここで欲しいという時に(ボールが)入ってこなくって、『ハッ!』となった時に入ってきた。それが前半のパターンだった。『俺がこうなったらボールをちょうだい』というのをハーフタイムの時に伝えた結果、1個(自分を)飛ばして次とか、俺が前向きに受けられるシーンが増えた」

 最後に、自分とも話し合った。

「前半はちょっと、『前に行き過ぎたかな』という感があったので、ちょっと考えて『ちょっと後ろで作りながらやろうぜ』と自分と話した。そしたら、うまくいったじゃん……みたいな。あまり考えないでプレーしました」

小林「周りを動かすのも力量」

 すると、どうなったか。

「後半は、そこ(=前半に上がり過ぎて潰していたスペース)にボールが入り始め、(左サイドバックのルーカス・)バイカーがフリーになった。俺が受けてルーカス(へパス)、俺が受けてルーカス――という形で左サイドから崩せた。それが、最終的にサムが(左サイドで)ファウルをもらって、FKからラッキーな形で(勝ち越しゴールが)入った。左サイドからの崩しが後半は多かったから、そういう意味では修正できたと思います。

 後半(の自分)はよりシンプルに、低い位置でたくさんボールに触って、チャンスに絡めたかなと思っています」

 気持ちが高ぶるハーフタイムのロッカールーム。そこで、しっかり前半の分析を味方に伝え、修正をかけたことについて、小林はこう語る。

「話した方が自分の好きなプレーが出できるし、(サッカーは)1人でやるスポーツではない。自分が良いプレーをするために、周りを動かすのも力量だと思うので、そういう意味ではそういうのが生きた試合だった」

 スハールスはこの試合が11月4日のスパルタ戦以来の出場で、負傷から復帰した試合だった。小林によると、これまでのヘーレンフェーンは、スハールスの言うことに対し、みんなが従っていたという。

「(スハールスがけがで)いなくなってからすごく会話が増えました。そういう意味ではチームの成熟を感じる。スタインがいない間、勝ち点を取れなかった(1勝1分け1敗)けれど、そこで若い選手がちょっと『俺がリーダーをやらなきゃ』みたいな雰囲気になったのかな。それが、スタインがいない間に得たものなのかなと今日、俺は感じました。スタインが(65分でベンチに退き)いなくなって逆転できたしね。それはすごく良いこと。彼を『ヤバイ』と思わせないといけない。現オランダ代表だけど、歳は関係ないので良かったと思います」

 こうして16節のヘーレンフェーンは4位の座を維持した。コミュニケーションの力がサッカーを変える。そう思わせてくれたエクセルシオール戦の小林だった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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