小林祐希がアヤックス戦で感じたジレンマ チームは敗戦も、やれる手ごたえを得る

中田徹

ファンを魅了した若きタレントの競演

クラーセン(左)と対峙(たいじ)する小林祐希 【Getty Images】

 小林祐希の所属するヘーレンフェーンは11月27日、ホームでアヤックスに0−1で敗れた。決定機の数ではアヤックス優勢の試合だったが、0−0の時点では随所にヘーレンフェーンにも好プレーが見られ、息詰まる攻防が続く。しかし、アヤックスは後半26分にデービー・クラーセンが先制ゴールを奪うと、ヘーレンフェーンの長身FW投入(ヘンク・フェールマン、ミッシェル・フラップ)に対して冷静に対処し、危なげなくリードを守り切る試合巧者ぶりを見せた。

 若きタレントの競演はファンを魅了した。デンマーク代表の19歳のストライカー、カスパー・ドルベリに対し、ヘーレンフェーンの20歳のセンターバック、ジェレミア・サン・ジュストはマンツーマンのように密着マークし、時には故意にファウルを仕掛ける。それでもドルベリは表情一つ変えることなく、淡々とサッカーをすることに集中し、「こいつは大物だ」と専門家をうならせていた。

『フットボール・インターナショナル』誌が7、『アルヘメーン・ダッハブラット』紙が6.5という採点を与えたように、小林は質の高いプレーをした。アヤックスのインサイドMFクラーセンとハキム・ジエクに対し、ヘーレンフェーンは小林とユネス・ナミルが見張る形となったが、アヤックスの中盤のキーマンはアンカーのラッセ・シェーネだ。

 ゲームメーカー、チャンスメーカー、ミドルシューター、フリーキッカーとして卓越したものを持つシェーネだが、中盤の低いところでプレーするので、フリーになることが多い。小林は相手をよく研究したようで、アヤックスがビルドアップを始めると、クラーセンへのパスコースを消しながら、シェーネへプレスをかけにいった。その結果、アヤックスがロングボールを蹴らざるを得なくなることもしばしばあり、小林はクラーセンを視野に入れながら、スプリントで自陣へ戻ってルースボールを拾いにいった。

「自分が思った通りやれば良かったかな」

 ところがハーフタイムに小林は、テクニカルスタッフから「シェーネに付かずに、クラーセンに付き続けてほしい」と指示を受けたらしい。失点するまで、後半のヘーレンフェーンもよく健闘していたと思うのだが、「前半と違うイメージでやったら、チーム全体が下がっちゃった」と小林は感じていた。

「(スタッフから)言われたことをやって(チームが)悪くなるのか、『自分が良いフィーリングだな』と思ったことを続けてチームが良くなるのか……。そこはちょっともどかしいというか、自分が思った通りやれば良かったかなと、そこを後悔してますね。

(前半は)守備も攻撃も、俺はすごいフィーリングが良かったんで、そのまま後半に入ろうと思ったら、怖がっちゃっているから『後ろに来い来い』って。 相手の25番(ドルベリ)は相当キープできるから、怖かったのは分かるんだけれど、今日は全部1対1で良かったんだよね。全部、今日はハメにいって。俺は90分やりたかった」

 失点シーンはシェーネを起点に、ドニー・ファン・デ・ベークのアシストでクラーセンが決めたもの。後半の戦術では、ドリブルで良い間合いを作ってからパスを出すシェーネを防げなかった。だが敗戦の中でも、オランダのトップクラブ相手にやれるという手応えを小林はつかんでいた。

「フェイエノールト(2−2)、PSV(1−1)、アヤックスとやって、今日が一番俺的にはチャンスに直結するパスを出せた。意外と前に向けるなとか、慣れてきているなというのはすごく感じている」

 テレビで見たクラーセン(23)は老け顔だから、小林(24)はベテラン選手だと信じ切っていた。

「俺より年下だなんて知らなかった。もう30歳ぐらいかと思っていたら、俺より下かよって(笑)。まあ、そういう奴がゴロゴロいるんで、もっとしっかりやっていかないといけない」

 これで2位アヤックスは首位フェイエノールトと勝ち点で並んだ。一方、ヘーレンフェーンは順位を1つ落とし5位に付けている。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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